筑波大、ISS滞在中に宇宙飛行士の体内深部で起こる変化を捉えることに成功
マイナビニュース / 2024年6月13日 16時52分
筑波大学は6月12日、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士の血液検体に含まれる、さまざまな組織の細胞から放出された微量のDNAやRNA分子を「リキッドバイオプシー」の手法を用いて解析することで、体内深部で起こる変化を捉えたことを発表した。
同成果は、筑波大 医学医療系 ゲノム生物学研究室のNailil Husna LPDP Scholar、同・村谷匡史教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Nature Communications」に掲載された。
ISSが周回するおよそ400kmの高度においては、地上の100万分の1程度の重力があり、微小重力(マイクロG)環境と呼ばれる。このような環境に長期間滞在すると、筋萎縮や骨量減少などが起き、人体の抗重力機能の減退が急速に起こることが知られている。
現在、月の開発が活発化しており、アルテミス計画では2020年代末ごろには月面に恒久的な有人活動拠点を建設するとされる。また、その先には火星有人探査も計画されており、こうした月や火星などの低重力環境や、火星を目指す際の片道で(現在の移動技術で)少なくとも半年ほどに及ぶ宇宙船内の微小重力環境での生活において、人体の抗重力機能の減退をどのように克復するかが重要な課題とされている。
そのため、ISSの日本実験棟「きぼう」に設置されている人工重力装置やマウス飼育装置を利用したさまざまな実験が行われ、骨や筋組織が宇宙で受ける変化の分子機構が解明されつつある。さらに、モデル動物を用いた研究により、体内時計や代謝の変化などが起こることも明らかになってきている。その結果として、ヒトでもさまざまな器官や組織の網羅的な解析を実施し、同様の応答が起こるのかどうかを検証する必要性が認識されるようになってきたという。しかし、宇宙飛行士の体内深部の組織を直接調べることは容易ではないことが課題となっていた。
そこで研究チームは、リキッドバイオプシーに注目。同手法は、血液などの液性検体を採取し、その中の「細胞外小胞」(生体膜で包まれた細胞外の構造)に含まれる生体分子を解析し、体内深部の組織や細胞で起こる変化を捉えられる解析技術だ。採血だけで体内の変化を把握できることから、臨床検査への応用を目指した研究も進む。今回の研究では、宇宙飛行士を対象に、打ち上げ前、宇宙滞在中、帰還後にた血液検体を採取し、それを用いてリキッドバイオプシー解析を行い、ヒトにおける宇宙環境応答の統合的な評価を実施することにしたという。
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