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吉川明日論の半導体放談 第309回 終わりがない半導体業界、その引き際を考える

マイナビニュース / 2024年8月5日 14時21分

しかし、こうした激烈な状況に長い間身を置くと、身体のあちこちがすり減ってくる。そして還暦の声を聞くころから、能力/気力の衰えを感じ始める。失敗をできるだけ回避しながら、あくまでもリスクを恐れない大胆な判断を下す為には、常に研ぎ澄まされた感覚と行動力を可能とする体力が必須である。それが充分に満たされないと感じ始めた頃から、「引退」という考えが頭に浮び始める。Victor Peng氏の心境は私には知るべくもないが、数々の業界人の活躍とその去就を見てきた経験から私が持った印象だ。
2.エンジニア職ではマイペースで長期に勤務するケースも

実際にはPeng氏のように幹部クラスまで上り詰めるのはむしろ稀で、業界は多くの職種の人が自身の領域を極める多大なハードワークにより成り立っていることは言うまでもない。その中でも、開発/設計などの技術部門のエンジニア達には独特の職業観がある。

自分に合ったエンジニアリングの仕事をコツコツとやることに専念し、その中にこそ仕事の喜びを感じるタイプの多くの優秀な人たちにも巡り合った。私がまだAMD勤務の駆け出し営業マンだった時、顧客からのややこしい質問を受けて、設計部門を訪ねていった時の話である。顧客からの質問を部門長にぶつけると、「その辺はジョンにしかわからないから、直接聞いてみたら」と紹介されたエンジニアは物静かな初老の人物で、質問について懇切丁寧に説明を受けた。その名刺にかかれていた名前で、ふと気が付いた。「XXXXの基礎と応用」などと言うコンピューター関連の入門書を書いた著者自身だった。そのことについて当人に尋ねると「大分前に書いた本だけどね……」などと言ってはにかんだ表情で、設計部門の本棚にあった一冊を差し出してくれた。思わず「お客さんにお土産として差し上げるので裏表紙に自筆サインを下さい」と頼んだら喜んでサインしてくれた。それを帰国後、顧客に届けたらかなり感激して、七面倒くさい技術の問題が一気に解決したということがあった。CAD技術が発達し、AIも動員する現在の設計部門の最前線ではもうあり得ない話だが、アナログ回路設計や半導体インゴット製造などの分野ではこうした経験に裏付けられた充分な知見を持ったエンジニアの匠の技が光ることもある。
3.後継者育成がカギとなる半導体業界

生成AIの登場で技術革新が加速する半導体業界だが、重要事項の意思決定はAIに頼るわけにはいかない。そうした熾烈な状況で何物にも代えがたいのは、年齢の積み重ねによる経験値の蓄積だ。経験の中には成功もあれば多くの失敗もある。これらが全て蓄積されて、現状に対応する際に有用な知見となる。遥かに進んだ技術革新のさなかにあっても「この風景は前にも見たことがある」と感じる時がある。業界全体が経験したことがない未知の状況に常に置かれているわけだから、経験値に基づいた判断がその正確さを上げるために有用となる事は理に適う。目先の問題解決に忙殺される毎日にありながら、自身の経験値を継承する後継者育成が成功のカギとなる。

吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら
(吉川明日論)



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