東北大など、有機分子のキラリティをそろえて無加湿プロトン伝導特性を向上
マイナビニュース / 2024年8月7日 17時34分
東北大学、金沢大学(金大)、早稲田大学(早大)の3者は8月6日、キラル分子の運動性が乏しい「1,2,3-トリアゾール塩」(以下、塩(1))では、左手型または右手型分子のみを含む「ホモキラル結晶」(以下、H結晶)の方がアゾール分子の回転運動が活発で、「無加湿プロトン(H+)伝導度」も高いことを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所の佐藤千慧大学院生(東北大大学院 工学研究科)、同・出倉駿助教、同・芥川智行教授、同・三部宏平大学院生(研究当時)、リガクの佐藤寛泰氏、信州大学の武田貴志准教授、金大の水野元博教授、同・栗原拓也助教、早大の谷口卓也准教授、北海道大学の中村貴義教授、同・呉佳冰助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
燃料電池の性能向上の鍵となるのが、水素イオン=プロトン(陽子:H+)が流れる固体電解質「H+伝導体」だ。しかし現在主流の高分子型H+伝導体は、加湿機構が不可欠にもかかわらず、電極反応の効率が良い100℃以上の温度では水が脱離して伝導性が失われてしまうため、加湿せずに100~300℃の中温域で高効率にH+を輸送できる無加湿H+伝導体が求められていた。
生体内では、キラリティのそろった分子集合体が、一方向回転運動に基づく100%近いエネルギー変換効率などを実現している。つまり、有機材料にキラリティを導入することで、高効率な分子回転運動による高H+伝導性の実現が期待されるという。しかしこれまで、有機材料へのキラル分子の導入とH+伝導性との関係は不明だったことから、研究チームは今回、生体内におけるキラリティ効果に着想を得て、有機材料のH+伝導性に対するキラリティの導入効果を検討したとする。
同研究ではまず、結晶中の分子の回転運動が報告されている五角形の「アゾール分子」と、キラリティを有する「カンファースルホン酸」(以下、C酸)を1:1の比率で組み合わせた種々の塩が作製された。C酸は、キラリティの異なる1Sと1Rを有する分子が存在するため、それぞれの塩に対して1S体分子のみを含むH結晶と1Sと1R体分子を50:50の比率で含む「ラセミ結晶」(以下、R結晶)を作製し、両結晶の結晶構造とH+伝導性の比較によりキラリティの影響が調べられた。その結果、アゾール分子として「1,2,3-トリアゾール」(以下、分子(2))を用いた塩における無加湿H+伝導性に明確な効果が観測され、キラリティの導入によってより高効率なH+伝導性が実現可能であることが突き止められた。
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