自筆遺言書に潜むリスクとは? 実際にあった、京都のお家騒動から学べること
マイナビニュース / 2024年8月27日 11時0分
こんにちは、行政書士の木村早苗です。今日は「もし自分の知らない自筆証書遺言が別にあったら」というちょっと怖いお話です。
○京都の文化系学生に人気だった「一澤帆布」
私が学生生活を送っていた1990年代初頭の京都では、「一澤帆布」のバッグがちょうど人気になり始めた頃でした。「一澤帆布」とは、言わずと知れた京都の老舗かばん屋さん。戦後には登山用品のトップブランドとして、1980年頃からはリュックサックやトートバッグ、だ円型手さげバッグなど、京都でしか買えないユニセックスなデザインで注目されました。友達のトートは何度か洗っていたせいか赤が少しくすんでいて、他にはない独特な印象を醸し出していた気がします。
こんな"おしゃれ"なブランドとして育てたのが、1980年に四代目として家業を継いだ三男の信三郎さん。2001年に三代目の父・信夫さんが亡くなり、長年ともに商売をしてきた信三郎さんは、顧問弁護士を通じて預かった父の遺言書に従い、夫妻で会社の株を相続して店を守っていくことになりました。しかし、この遺言書が自筆証書遺言だったことで、一澤帆布に思いもよらない問題が起こります。
○2通の自筆証書遺言と筆跡鑑定の危うさ
大学卒業後は銀行マンとして家業に一切関わらなかった長男が、信夫さんの死から4カ月して「第二の(自筆証書)遺言書」を提出。2通の自筆証書遺言を巡っての相続裁判が始まったのです。
信三郎さんの遺言書は「1997年12月12日」付、長男の遺言書は「2000年3月9日」付。民法では日付の新しい遺言書が優先されることもあり(1023条「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」)、「第二の遺言書」の無効を求めて筆跡鑑定をしたにも関わらず、2004年に敗訴してしまいます。
裁判では長男の遺言書にある不審点を幾つも挙げたにも関わらず、「無効と言える十分な証拠がない」として認められなかったのです。嘘が明らかだとわかっていても、正しいことを確実に立証できなければ勝てないのだから恐ろしいものです。
代表取締役を解任された信三郎さんは、納得できないという職人や店員たちを引き連れ新ブランド「一澤信三郎帆布」を開店。長男から再び商標権侵害などで提訴されるなど、のちに小説のモチーフにまでなった京都老舗店のお家騒動が何年か続いたのです。
自筆証書遺言では筆跡鑑定が重要な鍵となりますが、2004年の裁判では京都府警科学捜査研究所の現役所員とOBが鑑定を行いました。しかし、信三郎夫妻は遺言書が巻紙に筆で書かれていたため、書道家であり、書論や書跡学にも詳しい筆跡鑑定学の第一人者、神戸大学の魚住和秋教授(当時、現同大学名誉教授)に再鑑定を依頼。2007年に再び、その鑑定結果を証拠として妻の恵美さんが京都地裁へ無効確認訴訟を起こしました。
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