「バリオン音響振動」には未知のピークシフトが存在する、阪大などが宇宙論的シミュレーションから発見
マイナビニュース / 2024年10月7日 13時42分
大阪大学(阪大)は10月4日、スーパーコンピュータ(スパコン)を用いて、数億光年にわたる大規模な領域の宇宙論的スケールにおける構造形成の進化に関する宇宙論的シミュレーションを実施した結果、「ライマンアルファの森」の「バリオン音響振動」のピークのシフトを統計的に高い精度で発見したと発表した。
同成果は、スイス・ジュネーブ大学のフランチェスコ・シニガーリア氏を論文筆頭著者とし、阪大大学院 理学研究科の長峯健太郎教授、奥裕理大学院生(現・中国・浙江大学 博士研究員)らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
宇宙の全エネルギーの内訳において、生物や星などを形作る、観測可能な通常物質(バリオン)は5%ほどにすぎない(残りの約70%がダークエネルギー、約25%がダークマターとされている)。全体としては少量だが、重要な存在であり、初期宇宙におけるバリオンとプラズマの振動現象である「バリオン音響振動」(BAO)を用いた宇宙論的スケールの探査手法も存在している。
同手法では、BAOの波の痕跡が銀河やガスの分布に影響を与えることで、銀河同士の平均距離に特徴的な「BAOスケール」が生じるという。同スケールは宇宙論モデルで計算できるため、銀河分布の観測と比較すれば、宇宙の膨張速度やその歴史を詳しく知ることが可能であり、その精度と信頼性から、宇宙における「標準的物差し」として機能し、観測データから宇宙論パラメータを測定するために広く用いられているという。そこで研究チームは今回、遠方宇宙にある「高赤方偏移クェーサー」のスペクトルに刻まれた一連の吸収線であるライマンアルファの森を宇宙論的シミュレーションを用いて計算することにしたという。
クェーサーからの光は地球に届くまでにいくつもの中性水素の雲を通過し、エネルギーが吸収される。その結果、クェーサーのスペクトルに吸収線が生じることとなるが、ライマンアルファの森は、その吸収線がいくつも重なって、複雑な森のような形状になっていることを指すもので、これを調べることは、遠方宇宙におけるバリオンの分布を調べるのに役立つとされている。
今回の研究では、2つの異なるタイプの宇宙論的シミュレーションが用いられた。1つは、星形成や超新星爆発フィードバックの効果も加えられた演算をスパコンで行う「宇宙論的流体シミュレーション」。もう1つは、「ラグランジュ的摂動論」を用いた高速シミュレーションで、こちらはノートPCを用いて5分足らずで実行できるが、事前に宇宙論的流体シミュレーションを用いて比較較正をしておく必要があるという。
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