九大、キラルな分子集合体が「一重項励起子分裂」を促進することを発見
マイナビニュース / 2024年10月10日 19時45分
九州大学(九大)は10月9日、キラルな(分子不斉を有する)「テトラセン発色団」が形成するナノ粒子を開発し、キラルな自己組織化が「一重項励起子分裂」(SF)の効率化につながることを解明したと発表した。
同成果は、九大大学院 工学研究院のI lias Papadopoulos博士研究員(研究当時)、同・君塚信夫教授、同・大学院 理学研究院の宮田潔志准教授、同・大学院 工学研究院のJ Ka Ho Hui特任助教(研究当時)、同・森川全章助教、同・金子賢治教授、同・河原康仁助教、同・大学院 理学研究院の恩田健教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、多様な分野の基礎から応用までを扱う学際的な学術誌「Advanced Science」に掲載された。
SFは、1つの光子吸収によって生じた「一重項励起子」(S1)から2つの「三重項励起子」(T1)が生成される励起子増幅現象であり、SFを太陽電池などの光デバイスに応用することで、光励起エネルギーの熱エネルギー損失を低減し、キャリアの効率的生成をもたらすなどの、エネルギー変換効率を高める効果が期待されている。
これまでのSFに関する研究では、中間体である「スピン相関三重項対」の再結合によるS1経由の失活を抑制できないという課題を抱えていたほか、固体中で生じるSFの基本過程の3ステップそれぞれを効率化するための分子配向や配列など、分子組織設計指針が得られていなかったという。
そこで研究チームは今回、SFのメカニズムに基づき、固体中で生じるSFの基本過程の3ステップにおける、2つの三重項励起子の効率的なデコヒーレンスと分離を実現するため、キラリティを導入するという、新たな分子組織化原理を開拓することにしたとする。
分子の自己組織化に基づき、SFによる励起子増幅を高効率化するための合理的戦略として、以下の2点が考えられた。
発色団間の距離を精密に制御する
発色団の配向に一定方向のねじれ角を導入して並進対称性を崩し、π電子雲の重なりを調節する
この2点により、発色団間相互作用の大きさを制御する方法論が考えられるという。
これにより、スピン相関三重項対1(TT)における分子間スピン交換相互作用(J)が弱まった1(T⋯T)状態(J<1(T⋯T)状態(J<1(TT)と五重項励起子対5(TT)などがカップリングしたスピン相関多重励起子状態にあると考えられ、この五重項励起子対5(TT)を経ることによって得られる2つの三重項励起子を、規則的分子配列に沿って高速に拡散させることによって、再結合による失活を防げることが期待されたとする。
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