九大、キラルな分子集合体が「一重項励起子分裂」を促進することを発見
マイナビニュース / 2024年10月10日 19時45分
SFを検討する発色団としては、ペンタセンに比べてより安定で、かつSFにおける分子配向の効果を検討しやすい「テトラセン」が選択された。キラル分子組織化のアプローチとしては、テトラセンに共有結合的にキラリティを導入する方法と、非共有結合的に導入する方法の2種類が考えられるが、今回の研究ではスクリーニングに適した非共有結合アプローチが選択され、テトラセンジフェニルカルボン酸「Tc(COOH)2」と、キラルな「アミンR-1」および「同S-1」からなるイオン対から水分散性ナノ粒子が作製され、アルゴン雰囲気下について種々の分析が行われた。またアキラルなアミンを含むイオン対ナノ粒子も同様に作製され、比較検討が行われた結果、テトラセン発色団がナノ粒子中でキラルな分子配向環境にあることが示されたとした。そしてアキラルな「Tc(COO-)2(2-H+)2」ナノ粒子においても、ナノ粒子中における発色団間相互作用が大きなことが示されたとした。
これらのナノ粒子水分散試料について、フェムト秒ならびにナノ秒過渡吸収分光が実施されたところ、アキラルな対イオンを含むナノ粒子は失活し、SFは観測されなかったという。一方、キラルな「Tc(COO-)2(S-1-H+)2」ナノ粒子においては、フリーな三重項励起子T1の形成が確認されたほか、ラセミ体ナノ粒子は再結合(三重項-三重項消滅)により、フリーなT1を生成することなく失活することが確認されたという。これらの結果から、キラリティをπ電子系発色団に導入して発色団配向・配列を制御することによって、SFを促進できることが解明されたと研究チームでは説明する。
なお今後については、共有結合を用いてキラリティを導入し、より高秩序なキラル分子組織化の実現による効率200%のSFを目指すこと、ならびに分子組織化に基づく励起子増幅材料として太陽電池や光デバイスの機能向上、触媒化学や光センサ、量子情報材料などへの幅広い応用などの展開が期待されるとしている。
(波留久泉)
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