宇宙創成は「トンネル仮説」が有力か? 宇宙の波動関数の第一原理計算から京大などが導出
マイナビニュース / 2024年10月18日 17時21分
京都大学(京大)、理化学研究所(理研)、名古屋大学(名大)の3者は10月17日、現代宇宙論で有力視されている宇宙が無から量子効果によって創生されたとする考えの詳細に関する「無境界仮説」と「トンネル仮説」の2つの仮説に対し、数学的な曖昧さを解消する形で宇宙の波動関数を第一原理から計算した結果、最終的に、宇宙の波動関数は無境界仮説ではなくトンネル仮説に予言されるものになることを、一定の仮定の下で厳密に示したことを発表した。
同成果は、京大 基礎物理学研究所の松井宏樹特定研究員、同・岡林一賢特定研究員、理研の本多正純 数理創造プログラム上級研究員、名大 素粒子宇宙起源研究所の寺田隆広特任助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する素粒子物理学や場の理論・重力などを扱う学術誌「Physical Review D」に掲載された。
現代宇宙論では、時空のない無から量子効果により宇宙が創生されたとする仮説が有力視されており、この「量子宇宙創生」を記述する代表的な枠組みとして、無境界仮説とトンネル仮説の2つが考えられている。前者は、宇宙の量子状態を記述する宇宙の波動関数が、時間を虚数にしたユークリッド型時空を経路とする量子重力の経路積分によって得られるというもので、後者は宇宙が量子力学的なトンネル効果により創生されたとするものとされている。両者のどちらが正しいのかは決着しておらず、たとえば前者は量子重力のユークリッド型経路積分では作用が正定値性を持たない点などが批判されている一方、後者も限定的な状況でしか示されておらず決め手に欠けるとして、長らく論争が繰り広げられていた。
2017年に海外の研究チームが、時間を虚数とするユークリッド型時空ではなく、時間を実数のまま扱うローレンツ型時空を境界条件とする量子重力の経路積分法を提案し、そのような問題の現代的な定式化が行われた。このローレンツ型経路積分法は、収束する可能性のある経路積分を用いて「Wheeler-DeWitt方程式」の解に一致する波動関数を導出できるため、量子重力の厳密な経路積分法として議論されている。しかし先行研究では、経路積分を物理的解釈が明確な形に書き換える際に、考えている物理的パラメータ領域が「ストークス線」と呼ばれる領域に位置するために数学的な曖昧さが生じることで、最終的な物理的解釈にも曖昧さが残っている状況だったという。そこで研究チームは今回、宇宙の一様等方性を仮定し、ローレンツ型経路積分法を用いて、量子宇宙論における無境界仮説とトンネル仮説を再評価することにしたとする。
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