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中小企業デットファイナンスの新潮流 第33回 コベナンツ

マイナビニュース / 2024年11月8日 8時0分

財務維持コベナンツについては教科書に例示されており、「純資産維持」「利益維持」「有利子負債関連」が挙げられている外、変わり種では「在庫回転日数」を基準にすることもあります。有利子負債関連指標について掘り下げると、「EBITDA倍率」「残高」「負債比率」「ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)」「DSCR(デット・サービス・カバレッジ・レシオ)」が利用されます。

借り手企業がコベナンツに抵触した際の対応として、報告書では「期限の利益の喪失」「繰上償還」「利率の引上げ」「ウェイバー(権利放棄)」の4つの対応が挙げられていますが、実務ではパターン分けが多く複雑になるので、今回の記事では説明を割愛します。

昨今コベナンツに関する議論に触れる機会が増えたのは、社債市場を活性化したいという動きがあることに伴い、直接金融と間接金融との間に債権者保護の観点で格差が存在することが課題視されているからです。2023年4月にユニゾホールディングスの社債がデフォルトした事案もディスカッションの契機となっています。報告書では社債コベナンツとローンコベナンツという用語が提示されていますが、社債間限定同順位の担保提供制限条項のみが付与されていた社債と、シンジケートローンの事例で顕著ですが多様なコベナンツが付与されてきた融資との間に差異があり、融資の債権者に社債権者が劣後している状況が従来の姿でした。

公募の領域では社債の投資家を保護する方向に議論が進んでいますが、私募の領域ではコベナンツライトを志向する金融商品(Siiibo証券が提供する私募社債)も登場しています。特にスタートアップにおいてはコベナンツの実効性を確保すること自体が困難であり、信用リスクはコベナンツ以外の手段でカバーする方が合理的であるという考え方が採用されています。起業家のニーズが満たされており、資金調達の選択肢が広がってきたと言えるでしょう。

企業行動に制約を受けるイメージが強くなりがちなコベナンツですが、設定することで金利を優遇する融資商品を用意している金融機関も存在します。コベナンツを上手に活用すれば企業側も利益を享受できる可能性があるので、過度に忌避しないことをお薦めします。

コベナンツに関する説明は以上です。次回はシンジケートローンについて情報を整理します。

→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら

千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら
(千保理)



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