国立天文台、太古の月における熱膨張進化に関する新たな研究成果を発表
マイナビニュース / 2024年11月15日 16時9分
国立天文台(NAOJ) RISE月惑星探査プロジェクトは11月14日、重力異常やスペクトルデータ、衝突数値計算などを組み合わせた多角的なアプローチの結果、月がどのような膨張進化を太古に経験したのか、従来の数値計算に基づく月の熱進化モデルによる描像に反する新たな結果を得られたと発表した。
同成果は、NAOJの西山学特別客員研究員(学術振興会海外特別研究員/ドイツ航空宇宙センター 惑星科学部門 客員研究員/東京大学 理学系研究科 客員共同研究員兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する惑星科学の全般を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Planets」に掲載された。
月の膨張の証拠は、米国航空宇宙局(NASA)の月探査衛星「GRAIL」で得られた重力異常に関するデータから発見された。細長い正の重力異常である「線状重力異常」が多数見つかり、その原因は、地殻内に大規模に貫入した周囲の地殻よりも重いマグマの岩体と解釈されてきた。岩体は、その形成時期がわかれば月の膨張時期の制約情報となることなどからとても重要だ。しかし地表までは噴出していないため、月の表面データだけでは解明できず、これまで理解が進んでいなかったという。そこで研究チームは今回、直径が150km以上という「ローランド」と「ロシュ」の大規模クレーターが、線状重力異常と重なっている地域に着目したとする。
両クレーターは月の裏側にあり、どちらの内部でも重力の値が小さくなっている。直径からして、両クレーターは形成時に地殻を深さ15km程度まで掘削したと想定されている。もし、線状重力異常の貫入岩体がこれらのクレーター形成以前から存在していて掘削されたのであれば、岩体の一部がクレーター外部に放出されている可能性があり、同時に内部の重力低下も説明できるという。さらに、内部の重力低下が岩体の掘削・放出で説明できるのであれば、岩体はクレーターの年代よりも古いということになり、月の膨張年代の制約にもつながるとする。
まず、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「かぐや」やインドの「チャンドラヤーン1号」で得られた月表面の反射スペクトルデータを用いて、両クレーター周辺に飛ばされた岩体の露頭が存在するのかどうかが調査された。岩体は玄武岩質であると考えられ、高カルシウム輝石を多く含むと想定される。そうした露頭が実際に見つかれば、その鉄・チタン量をスペクトルから推定することが可能なことから、見つかった露頭が岩体由来であるかどうか、重力異常データと衝突数値計算を比較することで議論できるという。岩体の掘削・放出のシミュレーションが行われ、計算された衝突後の重力異常が実際のデータを再現しうるかが調べられたところ、両クレーターにおいて、異なる結果が得られたとした。
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