すばる望遠鏡の新たな超広視野多天体分光器「PFS」が遂に2月から本格稼働へ
マイナビニュース / 2025年1月14日 18時50分
○15年を要した悲願がついに結実、新発見に向け観測開始へ
このようなPFSが稼働することで、すばる望遠鏡の分光観測の効率は飛躍的に向上することになる。そのPFSの開発は、Kavli IPMU主導の下、すばる望遠鏡を運用するNAOJと二人三脚で進められてきた。Kavli IPMUは、宇宙の成り立ちに関するさまざまな理論模型を観測で実証するため、観測装置の提案・開発や大規模サーベイ観測計画の立案を統括。一方のNAOJは、装置開発や全体の統括に参画すると共に、装置の受け入れと運用を行う機関として中心的な役割を担ってきた。また、PFSプロジェクトには、米国、フランス、ブラジル、台湾、ドイツ、中国の20以上の研究機関が参加しており、研究チームのメンバーは現在では総勢150名にも及ぶとのこと。また国内外の多くのメーカーも協力しており、途中でコロナ禍などの厳しい時期もありながら、補助金、寄付金、国際協力による総額約1.1億ドルの予算を集め、15年に及ぶ開発期間を経て完成したとする。最初は村山教授と田村直之教授の二人で始め、15年かけて完成にこぎ着けたということで、会見ではふたりとも涙ぐんでしまう場面もあり、大変な苦労があったことが忍ばれた。
今後PFSの国際チームは、数年をかけて、合計360夜分の観測時間を活用し、広大な宇宙における数百万個の銀河の分光観測に挑むとのこと。宇宙の三次元地図を作製し、その時間変化を追うことで、加速する宇宙膨張を操るダークエネルギーの正体を探ると共に、多数の銀河を分光観測して138億年の宇宙史における銀河の形成過程を明らかにするとしている。さらに、天の川銀河やアンドロメダ銀河に属する数十万個の星を分光観測を行い、星の運動から重力の強さを解明することで、ダークマターの性質を探り、両銀河の形成史を解明するとした。加えて、宇宙が誕生して1秒後の時点で生まれたニュートリノが現在の宇宙の質量においてどれだけの割合を占めるのか、アインシュタインの理論や宇宙の標準モデルは正しいのか、宇宙の運命や終わりなどについても迫るとする。
PFSの本格稼働に対し、生みの親である村山教授は、「このものすごい装置をついに稼働できることはとてもエキサイティングです。15年間の準備がやっと今実を結びました。プロジェクトが長くかかると、時として科学的な価値を失ってしまうことがあります。一方、PFSはむしろ今こそサイエンスの機が熟してきました。銀河の誕生から宇宙の運命まで、目を見張るサイエンスをこれから5年、そしてその後も見ていくのが楽しみです」とコメント。
またもう1人の生みの親である田村教授は、「この間、製造、組み立て、試験というプロセスの中で、機関ごとに分かれた人と人、チームとチームをひたすらつなげる努力をしてきたつもりですが、それが1つの装置として結実したのは感無量です。ただこれは、息の長い運用とこれまでにない科学的成果の創出という究極の目標への通過点です。気を引き締めて、できる努力を続けていきます」としている。
なお、今後の観測は2月1日からスタートとなり、3月末からはサーベイ観測も始まる予定だ。
(波留久泉)
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