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吉川明日論の半導体放談 第324回 USスチール買収問題が象徴するグローバルビジネスの視界不良

マイナビニュース / 2025年1月17日 13時41分

画像提供:マイナビニュース

2024年末から話題となっていた日本製鉄による米国ペンシルバニア州のUSスチールの買収案件は、バイデン大統領の決断によって正式に禁止された。買収案の発表は2023年12月であるから、発表後一年も経った今にして頓挫することになった。日本製鉄は本決定を不服として米国政府を提訴する発表を行った。私は鉄鋼業界には門外漢であるが、大変に衝撃的なニュースであることは充分に理解できる。国をまたがったグローバルビジネスの方向性について、さらに視界不良が高まった印象がある。
複雑な事情が絡み合った買収案件が頓挫

中国・インド企業に押され、勢力を落としつつある日本・米国の鉄鋼企業同士が連合してその影響力を維持しようとする今回の買収案は、はた目には明らかな相乗効果があり、特に日本人の目から見れば「ごく妥当なビジネス防衛策」と映るが、米国の事情は非常に複雑に絡み合っている。

まず、米国は国内での鉄鋼製品の需要が自国内での供給能力を上回っていることを理解する必要がある。鉄鋼製品は船舶、航空機、軍事車両、ミサイルなど主要な国防装備の原材料であり、安全保障を考えるうえで非常に重要な分野である。こうした戦略的な軍事産業を支える企業が同盟国の日本と言えども他国の企業に買収される事の重大性は充分に理解できる。この買収案に大きくかかわっている重要な要件がもう1つある。それは、米国中西部地域と大西洋海岸中部地域、いわゆる「ラストベルト」に集中する工場労働者たちの存在だ。かつて米国経済を重工業分野で支えながら、豊かな生活を謳歌していた工場労働者でにぎわった工業地帯は、やがて経済構造の急激な変化に取り残され、現在では失業者であふれかえる“さびれた”街と化した。民主党と共和党の勢力拮抗という政治状況で、激しい選挙戦を繰り広げた大統領選では、この地域の代表的企業であるUSスチールの買収は、必要以上に政治的な要素を帯びた印象がある。こうした事情から、本来ならその可否を審査し決定するはずのCFIUS(対米投資委員会)が、その決定を大統領に委ねることになったのがその背景だ。結局、行政機関の最高レベルの政治判断に至り、バイデン大統領が決断した。

益々きな臭くなる世界状況では、「安全保障上の問題」で影響を受ける産業は鉄鋼業界だけにとどまらない。半導体業界も、この事案は「対岸の火事」として見過ごせない状況である。
地政学的影響を受ける半導体業界

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