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吉川明日論の半導体放談 第324回 USスチール買収問題が象徴するグローバルビジネスの視界不良

マイナビニュース / 2025年1月17日 13時41分

鉄鋼と同様、戦略的な意味を持つ半導体業界にも地政学的・政治的影響が増している。半導体は技術覇権競争で激しくぶつかり合う米中政府の関心事の中核的分野になっている。

最先端半導体の設計・製造技術の要件は、本来であれば各企業の日々の努力で進化することで業界全体が成長してゆくものであるが、その戦略的重要性が増し、各国が自国内でのサプライチェーンの強化に急激に舵を切った結果、政治的影響を多分に受けやすいものになった。

急速な成長を遂げるAI市場と、そのけん引役である先端半導体技術で世界最大の半導体企業となったNVIDIAの今後の成長には、本来の技術革新のみならずビジネスへの政治的な影響をいかにハンドルするかが重要な要件となっている。

バイデン政権のもとで昨年から強化されている米国政府による中国に対する輸出規制は、最近になって「人工知能向け半導体に関する輸出規制の見直し」がなされ、システムに組み込まれるなどの形で中国に流れる先端AI半導体の商流にタガをかける手立てを講じるという、より厳しい方向に向かっている。これまでの輸出規制を製品スペックの変更などの方法で回避してきたNVIDIAであるが、今回の規制見直しを受けて、こうした行政上の規制が「米国の技術革新と経済成長を妨げる」というはっきりとした政権批判に転じた。

これまで輸出規制法案を主導してきたバイデン政権は間もなく次期大統領のトランプ氏にその権限を譲るが、NVIDIAとしては新政権への牽制の意味を込めて異例の声明発表となった。片や、世界最大の市場である中国では、政府主導の自国技術の育成が中心課題となっていて、NVIDIAは中国独禁当局からの調査も受けている。

トランプ政権は保護主義的な方向性をはっきり打ち出していて、中国に対する睨みはバイデン政権以上に激しさを増す様相で、NVIDIAの先端半導体の製造を一手に引き受けるTSMCを擁する台湾の地政学的立ち位置も今後かなり微妙なものになる。

グローバルビジネスを展開する半導体企業各社は、日進月歩の進化を遂げる技術革新の加速とともに、こうした政治的な影響をまともに受けることになり、そのかじ取りの如何で状況が一変するリスクにさらされている。
高まるグローバルビジネスのかじ取りの困難さ

半導体とはまったく異なる鉄鋼業界で起こった今回の事案は、グローバルビジネスにおける視界不良がさらに悪化する今後の世界の動きを象徴する出来事のように映る。

トランプ次期政権では米中の覇権競争は激化することが自明であり、安全保障の名のもとに貿易政策での保護主義が蔓延する予想だが、特に今後は対米中両国への投資案件には細心の注意が必要となる。半導体各社のリーダーシップには不断の技術革新の推進とともに、地政学的なリスクを素早く察知する政治的なセンスが求められることになる。

吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら
(吉川明日論)



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