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「宇宙を作る」シミュレーション天文学への招待 第2回 アテルイIIIの特性とその目指すサイエンスのゴールとは?

マイナビニュース / 2025年2月3日 7時1分

ところがHBM2eメモリはまだ高額なため、大量搭載はコストの観点から厳しい(システムMのメモリ容量は26.6TB)。すると今度は、重力多体シミュレーションが不得手になるという別の問題が生じてしまう。同シミュレーションは惑星系や銀河系、さらには宇宙の大規模構造などいくつもの天体を扱うもので、計算量と総データ量が多いため、メモリ容量が必要とされるシミュレーションである。そこでメモリ容量の少ないシステムMをカバーするため、アテルイIIIでは、メモリ容量を重視したシステムPも用意されることになったのである。

システムPではHBM2eメモリに比べて安価なDDR5メモリが採用され、40.96TBを搭載。総メモリ容量ではアテルイIIの385.9TBに比べるとおよそ1/10だが、1ノードあたりではアテルイIIの約1.3倍となる512GBを搭載しており、性能向上が図られている。このようにアテルイIIIでは扱うシミュレーションの内容を要求B/Fと要求メモリ量の2つの要素で分類し、適したシステムの使い分けを行うことで、計算速度の短縮を図っているのである。
○アテルイIIIの試験的シミュレーション事例も報告

アテルイIIIは本格稼働してまだ日が浅いが、試験的にいくつかのシミュレーションが実施済みだ。その1つが、NAOJ CfCAの岩崎一成助教による「分子雲の形成」である。-263℃という極低温の濃密な星間ガス雲において、星の卵となる分子雲が作られていく一連のプロセスをシミュレーションしたものだ。もう1つが、NAOJ CfCAの三杉佳明特任研究員による、強い磁場に貫かれたフィラメント状分子雲において、星の母体である分子雲コアが合体していく様子を扱った「分子雲コアの合体」である。どちらもシステムMでシミュレーションを実施し、その結果アテルイIIを利用した際のおよそ半分の時間にまで短縮できたという。

「アテルイIIIの特性とサイエンスゴール」の解説を担当した滝脇准教授は、星の最期の瞬間に未解明な点が多いことから、さまざまな星の死と爆発的天体現象に関する研究を行っている。滝脇准教授自身は、アテルイIIIで「超新星爆発シミュレーション」を実施したといい、滝脇准教授は今後、超新星爆発、ガンマ線バースト、ブラックホール生成、パルサーやマグネターなどの中性子星の生成プロセスを統一的に理解することを目的に、元の星の質量、自転速度、磁場の強さをかけてアテルイIIIで100のモデルをシミュレーションする「100超新星プロジェクト」を実施する計画とした。

なお、アテルイIIIの利用は、シミュレーション天文学の研究であれば、研究者は無料で利用することが可能だ(もちろん研究内容の審査はある)。そして運用(リース契約)期間は2031年3月31日までとなっている(スパコンは基本リース契約の形を取る)。NAOJ CfCAを率いる小久保英一郎教授によれば、その後はまだ未定だが、個人的には、NAOJも属する自然科学研究機構の複数研究機関を対象に、合同でより高性能なスパコンの運用を可能なら実現させたいとしている。
(波留久泉)



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