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古舘佑太郎『CHIC HACK』インタビュー

NeoL / 2015年11月7日 18時0分

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古舘佑太郎『CHIC HACK』インタビュー

 

The SALOVERSの事実上のラストライブから7ヶ月。古舘佑太郎がソロアルバム『CHIC HACK』をリリースした。正直、古舘がここまで早い段階でソロ活動をスタートさせたのは意外だった。しかし、本作には確かに古舘が音楽に注ぐ新たな熱量とイメージが形象化されている。ラテン、カントリー、ブルース、初期パンク——多様なサウンドアプローチに私小説としての歌を乗せ、ソロアーティストとしての自由を謳歌しようとする古舘の新たな音楽人生が幕を切って落とされた。

 

 

——予想していたよりも早くソロ活動が動き出したなと思っていて。

古舘「そうですね。正直、自分でも早いなと思っていて。こんなに早くソロを始めるつもりはなかったんです。このソロ作を作ろうって動き出したのが6月で。3月25日にSALOVERSのラストライブがあって、そこから完全に音楽と離れた生活を送っていたんですね」

——どんな生活を送っていたんですか?

古舘「いやあ、ヒドいもんですよ(笑)。遅れてきた青春というか、大学生みたいな生活をしていて」

——バンドが終わったらそういう生活をしてみたいとも言ってたもんね。

古舘「そうそう。それで、SALOVERSのラストライブが終わってすぐに友だちと沖縄旅行に行って。東京に帰ってからもとにかく時間があるから、東京の北のほうに遊びに行ってみようということで、昼間から赤羽に飲みに行ったりして」

——最低で最高の生活ですね。

古舘「ホントに(笑)。すんごく楽しかったです。あと、アメリカにも旅行に行きました」

——アメリカはどこに?

古舘「ロサンゼルスに行きました。オフシーズンに行ったから航空券もかなり安くて。往復で7万円とか。10日くらいロスの友だちの家に泊まらせてもらって。音楽はまったく聴いてなかったですね。で、気づいたら6月くらいになっていて。今マネージャーをやってくれてるやつは、僕の幼なじみなんですけど、彼が『そろそろ音楽やろうぜ』って言ってくれて。僕自身はあまり乗り気じゃなかったんですけど、マネージャーにそれを口にすることはできなくて、ケツを叩かれるように始まっていった感じなんです」




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——乗り気じゃなかったけど、ケツを叩かれ、物事が動き出していくうちに徐々に音楽に対する情熱が戻ってきたんですか?

古舘「戻っちゃったんですよねえ」

——戻っていいんだよ(笑)。

古舘「自分のなかで音楽活動は戦場みたいな感覚があって。いろんなミュージシャンの方々が戦ってる世界。そこにSALOVERSは早い段階で入っちゃって、いろいろ試行錯誤しながら傷だらけになって戦場から離脱したんですよね。SALOVERSが無限期限の活動休止になって、僕も戦場からかなり遠い場所に行った。3月、4月、5月までは。そのときは二度と戦場には戻りたくないって正直思っていて」

——素直な気持ちとしてそう思っていた。

古舘「完全に思ってましたね」

——音楽から離れて自分の人生をどうしようと思ってたの?

古舘「休んでるときに伊豆にある断食道場にも行ったんですよ」

——へえ(笑)。

古舘「そこで3日間くらい断食したら、エネルギーが有り余っちゃって。帰り際に注意事項みたいなのを読んだら、『断食明けはエネルギーが放出するので、活動が活発になります。がんばりすぎないでください』みたいなことが書いてあったんですね。終わったあとホントにエネルギーが漲っちゃって、音楽はしたくないけど、何かしたいと思って、もつ焼きとかを始めたんですよ」

——は? 何それ。

古舘「もつ焼きの仕込みを覚えて、知り合いのカフェでもつ焼きを客に出すということをやって。もつ焼きの修行みたいなこともして」

——……(笑)。

古舘「それがすげえ楽しかったんです」

——もつ焼きを生業にできたらいいなと思ってたの?

古舘「それも本気で考えたんですけど、結局こうやってソロ作品を作って、もう1回戦場に戻りたいって思ったんですよね」

——戦場で音楽を鳴らしたいと。

古舘「そうです」

——やっぱり古舘くんは私小説としての歌を書いて、それをバンドサウンドで歌わざるを得ない人なんだと思うんですよね。その歌を人に聴いてもらいたいという欲求も消えないし。

古舘「そうですね。SALOVERSをやっていた動機もそこだと思います。それをあのメンバーと一緒にやることが大きくて。そういう動機の矛先がなくなるとやっぱりつらいんだなって。今回もレコーディングが終わってからリリースを待ってる時間が暇でつらいんですよね」

——今回のソロ作品は、中尾憲太郎氏、オータコージ氏、加藤綾太氏というメンバーがバンドサウンドを担ってますけど、このメンツはどのように集まったんですか?

古舘「まず、前にSALOVERSのプロデュースをしてもらったことがある中尾さんに会いに行ったんです。2人でお茶をしながらいろいろ話して。僕、中尾さんにはホントのことしか言わないんですけど、今思い返すとけっこう頭のおかしいことを言ってるんですよね」

——というと?

古舘「大先輩の中尾さんに『まだソロ活動をやる気はないんですけど、とりあえずベースを弾いてください』って言ってたんですよね(笑)」

——「は?」っていう(笑)。

古舘「そう。『今唯一決まってるのは、中尾さんにベースを弾いてもらうことなんです』って。でも、中尾さんはそれを喜んでくれて『やりたいことが決まってないならとりあえずスタジオに入ろう』って言ってくれて」

——優しいね。

古舘「ホントに。それでドラムはどうしようってなったときに中尾さんが『紹介したい人がいる』って言ってくれて、オータさんを紹介してくれたんです。オータさんとは一度お会いしたことがあったくらいでほとんど話したこともなかったんですけど、高校時代に曽我部恵一BANDが大好きでよくライブを観に行ってたので。SALOVERSのドラムの藤川(雄太)はずっとオータさんに憧れていて。それから3人でスタジオに入って、SALOVERSではやってなかった曲をその場でセッションすることから始まって」




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——曲のネタはあったんだ?

古舘「去年出した弾き語りのアルバム(『僕が唄っている理由』)に入ってる曲を基にセッションしました。2人のリズムの上でギターを弾いて歌うのがすごく楽しくて。超一流のプレイヤーである2人が僕の曲を弾いてくれることもすごくうれしかったし。自分の曲ではないような感覚になるくらい楽しかったんです。で、それからマネージャーが加藤くんを連れて来てくれて」

——加藤くんとの付き合いは長いですよね?

古舘「はい。むしろマネージャーと加藤くんより、俺と加藤くんのほうが仲がいいくらいで。加藤くんのバンド、ポニーテールスクライムは学芸大メイプルハウス(ライブハウス)出身のすぐ下の後輩なので。10代のころから半分ライバル、半分友だちみたいな感じ付き合っていて。で、加藤くんも含めた4人でメイプルハウスを借りて音を合わせるようになったんです。そのときの僕はまだブレブレだったので、僕のただの友だちを連れてきて、そいつにパーカッション係としてコンガを叩かせたりして(笑)」

——(笑)。それは「熱帯夜のコト」の元になるような曲で?

古舘「そうです、そうです。いろんなことが麻痺してたから、雄太にコーラスをやらせたりとか、メイプルハウスがカオスな状態になってました。でも、中尾さんとオータさんがいるから、ちゃんと進行はするんですよ。そこから7月くらいにようやくレコーディングができることになって。でも、レコーディングに入ってからが地獄でしたね」

——どういう部分で?

古舘「僕のやりたいことが定まってなかったので。ピアノやホーンを入れたいんだけど、僕はこれまで幼なじみとしかバンドをやったことがないので、他のミュージシャンの方たちと音楽的なコミュニケーションをちゃんととったことがないんですよね。ピアノやホーンのミュージシャンの方たちはスタジオには来れなくて、メールでアレンジのやり取りしたんですけど。僕、メールや事務作業が苦手なので。それですごく疲れちゃって」

——ピアノやホーンのアレンジは先方にお任せしたんですか?

古舘「僕のイメージを先方に投げてすり合わせしてという感じですね。ソロの大変さを知りました。レコーディング前日までに5曲しかできてなくて、最後の最後にできたのが1曲目に入ってる『タンデロン』なんですけど」

——これが最後だったんだ。むしろ最初に作った曲なのかなと思った。この曲がいちばんSALOVERSの面影が強く残ってるから。

古舘「そうですね。この曲にはピアノやホーンも入ってないし、いちばんバンドっぽい曲なので。最後の最後に作ったから、時間がなくて自分らしさみたいなものがモロに出たんだと思います」

——終わった青春のその後という感じの曲ですよね。SALOVERSの背中に手を振ってるというか。

古舘「今までは照れくさくてそういうことを考えるのも、言うのもヤだったんですよ。でも、それこそSALOVERSの最後のライブのときもほとんどそういうことは言わず、超淡白に終わって。でも、こうやってバンドが終わってから半年くらい経って冷静になると、照れててもしょうがないなと思うようになって。きれいごとかもしれないけど、そう思ってしまったからにはがんばらないとなって」

——これは古舘くんの作家性だと思うんだけど、他の曲の歌詞も追憶にふける内容が多いですよね。

古舘「確かにそうなんですよね。それを必死に抑えようともしたんです。でも、『ああ、また過去のことを書いてる』って結局なるんですよね」

——ただ、「熱帯夜のコト」はどこか官能的な筆致で。こういう歌詞を書けたのもよかったですよね。

古舘「この曲の歌詞を書いてるときはSALOVERSでは書いてないことを書こうという思いが強かったので。僕としては、今回の作品を作って、次の作品にすでに気持ちがいってるんですよね。早く作りたいです」




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——本作も「熱帯夜のコト」以降の楽曲で古舘くんの新たな音楽像と未来を示していると思うけど。

古舘「今回の作品では音楽的にいろんなことをやったんですけど、次の作品ではもうちょっと方向性を凝縮させたいと思ってます。今回のカラーが曲ごとに6色あるとしたら、2色くらいに絞りたいなって。僕、never young beachの『YASHINOKI HOUSE』が大好きなんですけど、あれってほぼ1色のカラーで作られてるじゃないですか。ああいうアルバムに憧れるんですよね。SALOVERSのラストラルバムもそれに近い感じがあったかもしれないですけど、もっとコンセプチュアルな作品を作ってみたいですね。あと、SALOVERSではミックスでコンプをかけて音をギュッとさせることが多かったんですけど、それはなぜかというと、作品でもライブ感みたいなものを出したかったからで。でも、そういう荒々しい感じはもういいかなって」

——もっと作品至上主義的でありたいということですか?

古舘「そうですね。ライブのことを意識せずに作品を作ってみたいなって」

——本作もそういう趣はあると思いますけどね。次の課題はトーンを統一するという。

古舘「そうですね」

——ところで、「熱帯夜のコト」のホーンやティンバレスはライブではどうするの? 同期とか?

古舘「今回は固定のメンバーで作品を作りましたけど、ソロは自由なので、1曲ごとに違うミュージシャンとやってみても楽しそうだなって思ってます」

——つまり、新たなバンドを組むつもりはないということでもありますよね?

古舘「はい、バンドは組まないと思います。きれいごとっぽいですけど、ソロをやる理由が自分のなかではっきりした部分があって。なんで自分は音楽を続けるんだろうって考えたときに、やっぱりいつかどこかでもう一度、1曲でもいいからSALOVERSの4人で演奏をしたいなって思っちゃったんです。それはもう、1曲でもいいんです。SALOVERSは無期限休止って言ってるくらいなので、お客さんもこれは前向きな休止というより、解散に近い休止なんだってなんとなくわかってると思うんですね」

——そうですね。

古舘「僕らもそういうつもりでああいう言い方をしましたし。でも、完全復活ではなく、いつか1曲だけでもあの4人で音楽を鳴らしたいと思う。それは僕が音楽を辞めちゃったら一生叶わないじゃないですか。他のメンバーの性格的にもあいつらとの関係的にも、どうしたら夢の続きを見せられるんだろうって考えたときに、僕がソロでデッカいステージに立てるようになって、アンコールであいつらを呼んで1曲でもやれたらもう辞めてもいいかなと思ったんです」

——音楽を?

古舘「そう。続ける理由を探すうえで大事なことって、これをやれたら終われる理由を探すことだなと思って。そこで出た答えがそういうことだったんです」

——それが再び戦場に戻る理由にもなったし。

古舘「そうです。たとえば僕はかつてフジロックのグリーンステージに立ちたいと思ってたんですけど、もし今それが叶って音楽を辞めるかって言われたらたぶん辞めない気がするんですよ。他にも小さな夢はいっぱいありますけど、これができたらもういいやというのはあまりなくて。だから、あいつらと1曲でも一緒にやれるまでは音楽を続けようと思ってます」

——なるほどね。

古舘「でも、その夢が叶ったとしても、また新しい感情や夢が出てきたら、次はああしよう、こうしょうってなるかもしれない。でも、今はそれが夢です」

——NeoLで連載小説も始まってますけど、どうですか?

古舘「書き始めたらすごく楽しくて。正直、歌詞よりも合ってるなと思っちゃいましたね。制約がないから。ストーリーはほとんど実話を基にしていて。短編を重ねて長編になるようなものにしたいんです。ほとんどドキュメンタリーなんですけど、それをいかに物語っぽく書けるか」

——ほとんど私小説に近い。

古舘「そうですね。2回目からはそれこそ追憶じゃないですけど、幼少期から始まって、バンドをやって、そのバンドが終わるまでのことを書いて長編にしたいなと思ってます。今は音楽に対する情熱も戻ってきたし、音楽以外でももらったチャンスは全部活かしたいなと思うんですよね」

——それは役者業も?

古舘「そうですね。小説もそうだし、役者も求められるならまたやりたいですね。僕は10代のころからどこか小さく生きてきたんですけど、それはもうやめようって。あと、SALOVERSのときは、メンバー以外はずっと年上の方たちと仕事をしてきて、ここにきて歳が近い人と一緒にやる意味みたいなものを自覚し始めてるんですよね」

 

撮影 中野修也/photo Shuya Nakano


文 三宅正一/text Shoichi Miyake(Q2)


編集 桑原亮子/edit Ryoko Kuwahara


 


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古舘佑太郎

『CHIC HACK』

発売中

(YOUTH RECORDS)

http://www.amazon.co.jp/CHIC-HACK-古舘佑太郎/dp/B013P7VWVK

http://www.hmv.co.jp/artist_古舘佑太郎_000000000630303/item_Chic-Hack_6587189

http://tower.jp/item/3991625/CHIC-HACK

 

 

古舘佑太郎


ミュージシャン。ロックバンド・The SALOVERSを、2015年3月をもって無期限活動休止とする。現在、ソロ活動を開始。2015年10月21日アルバム「CHIC HACK」を発売。


http://www.youthrecords-specialpage.com


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http://www.neol.jp/culture/

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