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Fiction Issue : Interview with tofubeats about『FANTASY CLUB』

NeoL / 2017年6月30日 20時0分

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Fiction Issue : Interview with tofubeats about『FANTASY CLUB』



別のメディアの話で恐縮だが、「TV BROS」のレビューで、tofubeatsの新作『FANTASY CLUB』は、キャロル・キングの「つづれおり」を感じると書いた。それは、いわゆるシンガー・ソング・ライター的な質感というより、前作『POSITIVE』や、前作から今作までの間にあったアニメ「クラシカロイド」の楽曲制作で詳らかになった、オーダーやイメージに対して求められるクオリティの要求に応えるというポップ・クリエイターとしてのtofubeatsの手腕を、キャロル・キングでいえば”A Natural Woman”や”The Loco-Motion”のような仕事に準えれば、そこから極私的な部分も垣間見えるSSWとしての性格が強く出た『つづれおり』への流れは、今作の『FANTASY CLUB』との性格や流れと共通性を感じたからだった。
その意味でも、tofubeats自身の内省が表れた本作だが、それらの表現は決して言い切り形ではなく、非常に曖昧で、判断を躊躇しながら、それ故に丁寧に心の襞を書くような構成となっている。それが影響してか、今回のインタビューも明確な質問ではなく、筆者が「思う」「感じる」という話を彼に伝え、問答するような形になっていること、そして具体的な音楽の話題よりも観念的な話になっていることをご容赦願いたい。
リスナーに「思考」させる作品を何故作ったか、彼のその考えとは。

 
——今作について既によく言われることだと思うけど、今回はSSW的な感触や「個」に向かった作品だと感じました。その意味でも、ポップス・クリエイターとしての作品性、要求されるであろうモノに対する回答性が強かった『POSITIVE』とは違った方向性がまず印象的に感じて。


tofubeats「今回はメジャー・デビューする前にやってたチル・ウェイヴとか、ドローンみたいな楽曲もやってて、その意味ではインディとかフリーダウンロード、メジャー・デビュー前にやってたこと、不特定多数に聴かれることを意識してない頃の要素がスゴく入ってるんですよね。その意味でも今回は自分が元々好きだった要素が一番入ってると思うんですよね。制作期間も一番長くとれたので、作品を吟味する時間があったし、『丸出し度合い』も実は一番制御されてるんですけど、今作の構成がもし意外に思われるとしたら、改めてメジャー・デビューしたんだなって思いますね。リスナーや消化する側が、僕の作品について『メジャー以降』が起点になっていて、イメージの原点にあるんだなって」


——活動の規模や注目性を考えれば、そういったリスナーが生まれるのも当然だと思うけど、そういった層に今作をアプローチすることに対する恐怖はあった?


tofubeats「不安はマジでありましたね。『いけるのか、これ』って。でも契約のタイミング上、これがコケたとしても、次で頑張ればいいかっていう。もう一枚リリースする事は決まってるんで(笑)」


——保険があったと(笑)。


tofubeats「だからチャレンジ出来るタイミングでもあったんですよ。それにいまは個人で動いてるんで、何かあっても大変なのは俺とマネジャーだけだなって。だから正直いえば高い打点は想定してなかったんですけど、反響が良くてホッとしてるというか、世の中を見くびってたと思いましたね。こういうのが良いのかな、ってやらなくても、ちゃんと評価してくれるんだって。『POSITIVE』は頑張って料理した作品だったけど、今回は最近の土井善晴さんの料理みたいな感じなんですよね」


——土井善晴さんの料理が頑張ってないとは言わないけど、煮干しで出汁を取って、その煮干しを具にした味噌汁にしちゃうとか、よりシンプルに、外連味が無くなってるよね。


tofubeats「しらすだけのチャーハンが結局美味しいとか(笑)。そういう感じですね。それにこれだけ市場がシュリンクしてたら、『不特定多数』ってないんですよね」


——不特定多数へのマーケティングに基いて作って100万枚をセールスするなんて事はあり得ない。


tofubeats「だから、主観しか頼るモノがないんですよ。自分がいいと思ってるから、人も良いと思ってくれる『はず』しか判断基準がない。でも、今回の作品も前回と同じぐらい売れてるから、それは嬉しいことであり、リスナーを信じきれてなかったのかな、ってちょっと反省しましたね」


——昨年、You Tube上に”shoppingmall”が発表された時、やっぱりその内容に驚いたんだよね。内容や映像の情感も含めて、スゴく寂寞とした風景にも思えて。


tofubeats「はい」


——ただ、それがアルバムになると、他の楽曲と連携することーーそれは個人的には”BABY”がある事から思わされたーーによって、全く違う景色に感じる仕立てになっていたのが本当に面白くて。そうなる事は想定していた?


tofubeats「そうですね。全曲そういう風になったらいいなと思ってました。その方がアルバムを作る意味があるなって。今までもそれを狙ってはいたんですけど、今回はよりそれが明確に出来るんじゃないか、っていう見通しがあったんですよね」


——それはどのタイミングで思ったの?


tofubeats「”shoppingmall”が出来た時ですね。『POSITIVE』が出来た直後には”BABY”と”FANTASY CLUB”、”OPEN YOUR HEART”の3曲は出来ていて、ライヴでも既にやっていたんですよね。その流れの上で”shoppingmall”が出来て、『これは”shoppingmall”から”BABY”までーーその間に”FANTASY CLUB”や”OPEN YOUR HEART”を挟みながらーーキレイに線が引けたら、アルバムが完成するな』って思ったんです」









——前作の『POSITIVE』は、事実としては違うけれども、雰囲気としてはシングル集に近い感触があったから、アルバムとしての構成の意味合いの違いがあるとも思う。


tofubeats「前作はヒットをとにかく打とうと狙った曲を14曲集めたっていう感じだったし、構成としては『積み木』ですね。だけど、今回は大きな材木から一刀彫で熊の置物を削り出してるような」


——その意味でも、その流れはカウンターという意識?


tofubeats「いや、カウンターっていうよりは、同じ事をやってもしょうがないから、方向を変えた感じですね。前回は自分が思っている『スッキリしたJ-POP』が形に出来たと思うんですよ。だから、それとはまた違う方向性を形にしようって」


——「別の手」というか。前作から今作までの間にはアニメ「クラシカロイド」の挿入歌の制作があったけど、あの中で作られた曲は、カテゴリーとしてはアニソン/J-POPという、いま日本で最も売れる音楽であり、しかもクラシック曲をお題にJ-POPとして再構築するという、職人性も求められる部分もあって。


tofubeats「それがまさにJ-POPで培った技術だったんですよね」


——特に”アイネクライネ・夜のムジーク”は、tofubeatsに求められている客観的なイメージをクリアした作品だと思っていて。


tofubeats「『クラシカロイド』をちゃんとチェックしてインタビューしにきた人、初ですわ(笑)」


——その意味でも、客観よりも主観の強いこのアルバムに、振り幅を感じたんだよね。


tofubeats「『クラシカロイド』みたいな事も、やりたいことの一つなんですよ。オーダーに基いて、求められるモノを形にするのも僕は楽しい。ただ、毎回オーダーメイドでやりたいかといったら、そういう職人肌の人間ではない。だけど、その両方とも中途半端にやるんじゃなくて、『極端』にしないと、格好良くなっていかへんって思うんですよね。ポップなことはズルムケでやらないといけないし、自分に寄った表現も、躊躇なく自分に寄せて形に出来ないとダメだと思うんです。そこが今までは踏み込みきれない部分もあったんですけど、ポップに振り切った『クラシカロイド』をやったお陰で、逆の方向もちゃんとやろうって思えた部分はあるかも知れないですね。どっちかだけやっても格好いいと思わへんくて、どっちもやって、どっちも出来るからこそ、どっちのことも『言う』ことが出来るっていうか。食べてない料理の文句はやっぱり言っちゃダメじゃないですか。だったら、食べてから何か言おうって」


——今回はtofuくんのヴォーカルに大きな意味があると思ったんだよね。tofuくんは主観や内省を、今までは形にあまりしてこなかったけど、そういった部分も今回はリリックとして形にしていて。そして、それを表現する時に、ヴォーカルの「ブレス」を、ノイズとしてカットしてない。例えば前作で言えば”DANCE&DANCE”はブレスが聴こえないか、切ってると思うんだけど、今回で言えば特に”shoppingmall”が顕著だけど、息を吸う音やブレスをノイズとして切らない事で、オートチューンであっても、主観的なリリックと相まって「tofubeatsの存在性」が際立つ仕立てとなっていて。


tofubeats「今回はヴォーカルに関して2つくらい大きな変化があるんですね。まず一つはマイクが良くなった。僕は大学の時から、高くはないけどオートチューンの『乗り』が良いマイクを使ってたんですね。だけど今回から普通に高い、ちゃんとしたマイクに変えたんです。そして今回から立って歌うようにしたんですよね。そういう当たり前の事を26にしてやるようになって(笑)。でも、それがとてつもない変化を生んだんです」


——星野源のラジオにtofuくんが出た時も「立つ/座る問題」の話をしてたけど、そんなに違うんだね。


tofubeats「中田ヤスタカさんもPerfumeに最初は座って歌わせてたんですよね。それは余談ですが、DTMは、極端に言えばそれまでの特権階級しか出来なかった音楽制作が、パソコンがあれば、誰でも制作出来るようになったという変化を生んだと思うんです。僕自身、中学校の時に、パソコンがあれば、素養がなくても、センスや発想を武器に戦う事が出来るんだっていう『啓示』を受けて始めたんですよね。ただし逆に言えば、歌がうまくない、張り上げてもいい声がでない人が、オートチューンっていうテクノロジーの恩恵によって、ある程度は聴ける歌が歌える訳で。だからこそ『立って』歌うのが嫌だったんですよ」


——立って歌うと「歌手」になってしまうというか。


tofubeats「近いですね。ヴォーカリスト的なモノになってしまうというか。ただ徐々に歌にも向かい合っていかなきゃなって事で、とりあえず立つぐらいはやってみようと。そうするとブレスが入るようになったんです」


——結果的になんだ。


tofubeats「そうなんですよ」


——個人的には、ブレスが入る事からも、今回は「ストリート・アルバム」だと思ったんだよね。


tofubeats「ほう。なんでやってところを聞かせてください」


——そう構えられると話しづらいな(笑)。今の話にあった通り、今のストリート・ミュージック、特にヒップホップやテクノ以降の音楽は、テクノロジーの進化によって、誰でも音楽制作にアクセスできるようになった事で、需要と享受と発展が生まれたのは周知の事実で。それはtofuくんの制作や、このアルバムにも通底しているよね。そして、それ以前のストリート・ミュージックの一形態には、ヴォーカルを中心にした「ドゥワップ」があって、そこに見られる和声や息遣いは、このアルバムだと”CHANT #1”にその形態を色濃く映していて、同時にそのリプライズである”CHANT #2 (FOR FANTASY CLUB)”はスクリューで表現される事で、古典と今様のストリートを繋げていると思った。また、ストリート・ミュージックは基本的には抽象性よりも、自分や自分たち、本人性について歌うものが多いし、このアルバムもtofuくんの本人性が強く表れてる、息遣いが更にそれを肉体性として強化してる。そういった共通点からも、このアルバムはストリート・ミュージックなんだなって。


tofubeats「なるほど。低音がブンブン出てるから、サグな人ほど今回はアルバムは喜んでくれるんですよね。そういう意味のストリートかと思った」


——人をサグ扱いしないで下さい(笑)。


tofubeats「でもそこ好きですよね?(笑)」


——勿論(笑)。このアルバムの低音具合は素晴らしい。


tofubeats「例えばBUSHMINDさんから『ヤバいね、トラック』って褒められたり、意外な反応が多いし、そういう人から褒められるのは超嬉しいですね」


——特に”shoppingmall(for FANTASY CLUB)”はアルバムのバージョンになってから、より踊れる曲になっていて、内容とダンサブルさのバランスという部分でも、アルバムでよりその意味合いが変わっていると思って。だから、表面的な感触だとネガティヴっていう風に捉える人もいるかも知れないけど、ノリとしては非常にバンギンで踊れる曲な事も面白くて。


tofubeats「そうなんですよね。”shoppingmall”は僕としてもめっちゃメイン・ストリームのオケが出来たと思うし、バンガー・チューンだから2曲めにしてるのに、なかなか大盛りあがりしないんですよね。もうそろそろ(TRAPビートが世間的に通用して)いけるのかな、と思ったんですけど、全然そんなことなかったですね」


——でも、分かりやすいTRAPよりもビートの間のとり方がちょっと違う部分もあるよね。


tofubeats「ハード・シンセで作ってるんで、音像的にはウェットな感じになったんですよね。だから完全にDTMで完結してるモノとは一戦を画すようなタッチになってると思いますね。かつ構成としてハネた感じ、隙間のある感じも作れたんですけど、あえてベッタリとベースが鳴ってる風にしましたね。そういう音像のモノがあんまりないなと思ったし、現地っぽいトラックができる奴は多いから、それをやったら『替え』が効いちゃうんですよね。だかた、より自分らしい音像を考えたときに、目先を変えたこういうビート感にして」



——代替不可能性を形にしたというか。そういう構造も含めて、今回は時代性が強いと思う。それは音楽の流行や構造の部分でなく、tofuくん自身がいま求めるアプローチや、いまの感情という部分という意味での時代性なんだけど。


tofubeats「アルバムとしても10年後に聞いたら、2017年っぽいって思われるような事を目指したと思いますね。それはそっち方が長く聴けるのかなと思って」


——『POSITIVE』はポップスとしてタイムレスなモノを目指してたと思うけど、それとは違う意味の長く聴けるという事?


tofubeats「明らかにタイムレスなものではなくて、その時っぽいモノの方が、実は長く聞かれるんじゃないかなって思ったんですよね。いわば『旧譜だな』って感触で聴かれるというか」


——このジャケットからそう思わされたのかも知れないけど、このアルバムは内省的ではあるけど、独り言じゃなくて、誰かに向けてはいるように感じて。自問自答ではあるけど、その問は、問いかけや第三者とのコミュニケーションに向ってると思ったんだよね。


tofubeats「でも、あまり人に対しては風呂敷を広げないようにはしたんですけどね。対他人というよりも、もっとぼんやりとしたモノに向ってるというか」


——まさしくそこで、このジャケットで顔が見えてる人と見えてない人がいる。そして、顔が見えているのがtofuくんだとすると、「顔の見えない誰か」に向って話しているようなイメージを受けて。


tofubeats「メッセージも自分に返って来るようにはしてますけどね。人に対して向けてしまうと、『分からなさ』のような部分が薄れてしまうなって。だから『問』がテーマだけど、直接問わないようにしてるみたいな。明言して問うような事はしてない。それよりも、これを聴くことで『問』が生まれるものにしたかった」


——なるほど。話が”shoppingmall”中心になって申し訳ないんだけど、あの曲の1stヴァースは、文章としての文節の切り方が曖昧で、例えば「あの新譜/auto-tune/意味無くかかっていた」と「もう良し悪しとかわからないな」という二節を、意味が繋がってとるか、それとも別々の内容としてとるかで、全く意味が変わるんだけど、その受け止め方はリスナーがどうとでもとれるようになっているし、「最近好きなアルバムを聞いた」と「特に話す相手はいない」も、別々の話なのか、つながっているのは明確じゃない。2ndヴァースは文節の接続が分かりやすい分、余計に、その内容的な曖昧さが際立つようになっていて。その意味でも、そういった「分からなさ」や曖昧な部分に、想像力が働かされるようになっていると感じたんだよね。


tofubeats「『FANTASY CLUB』だけに、テーマが想像力っていうのはあります。想像力を持つって事をもっと柔らかく言いたかった。やっぱり、現実の上に想像が乗っているわけで、現実と向き合うために、想像力をどう働かせていくかっていうのが、いまは求められるのかもしれないなって。例えば、僕がいまJETさんを殴ったら、JETさんは痛いだろうな、という想像力」


——それはRHYMESTERの”911エブリデイ”のMUMMY-Dさんのヴァースに「民族・国家・主義・主張・宗派、自由もたらすのはその銃か?ユナイテッドネーション、メディアのアジテーション、越えろ俺らのイマジネーション」というリリックがあるけど、それとも近づく気がします。


tofubeats「ただ、流石に『イマジン』というタイトルは大仰でつけられないんで『Fantasy』、しかも、それを『持て』っていうんじゃなくて、強制力を持たないようにしたかったんで、だからこそ『Club』なんですよね」


——良いでも悪いでもない、正義でも悪でもない、正でも負でもない……そういう明確に出来ない感情が通底したアルバムだし、そこに対して答えを出してはいないよね。


tofubeats「そういう感情が、いまは時代的にもマックスだと思うんです。それを形にして置いとけたら、これは後々に活きると思ったんですよね。そういう気持ちは作品に還元しようと。確かに、賛成反対を言葉にすれば一発で伝わるんですけど、それをしないのがミュージシャンの仕事、0か100じゃない部分を表現できるのがアートだと思って。言えないこと、言葉で表現しにくい事を表現するのが音楽、僕の好きな音楽なんですよね」












——その作品の中心に”shoppingmall”という身近なテーマとそこから拡散するイメージがあるのも興味深い。


tofubeats「『ショッピングモールを王道として捉えられるか』なんですよね。ショッピングモールって商店街と対比する構造で置かれがちですけど、自分にとって、自分が受容してきたのはデパートであって、ショッピングモールだから、そっちの方が王道なはずなんですよ。だけど、ショッピングモールより商店街の方がいいよね、っていう風な『教育』で思わされてる部分もある」


——僕も田舎の山を切り拓いて街を作った、本当の地元民なんてほぼいないニュータウン出身なので、そもそも商店街なんて無かったし、街に付随して建てられたデパートや大型スーパーが原風景。でも「商店街の方がいい」というような、謎の植え付けがある。DOTAMAくんの曲に”イオンモール”っていう曲があって、それもペシミスティックな感触があるんだけど、その曲について彼に話を聞いたら「でもショッピングモールって楽しいんですよね」って言われてハッとしたんだよね。確かに商店街とショッピングモールを、個人資本と大資本の衝突と捉えがちだけど、自分がどっちを享受してきたかと言えばショッピングモールだし、本当はそれがリアルだよな、って。だから「何がリアルで何がリアルじゃ無いか」というリリックにも同じようにハッとさせられる。


tofubeats「そこで『リアル』『リアリティ』みたいなモノが反転してるな、って思ったんですよね。僕らにとってリアルなのは、ジャスコでありダイエーであり、グルメシティなんですよ。そこに対して嘘をつきたくないし、そこから得た影響で音楽をやってる。東京に生まれ育って色んなイヴェントに子供の頃から行ってたんじゃなくて、神戸のダイエーで新譜のCDを買って、ブックオフの中古CDを買ってたわけです。その上で自分の音楽をやってるけど、一方で、そういう環境下に育った自分が、果たして王道になれるのかっていう、コンプレックスというか、アンビバレンスがあるんですよね。今やったらSuchmosとかD.A.N.みたいなバンドを見ると、めっちゃ羨ましい(笑)」


——確かに、KANDYTOWNに話を聞いたりすると、センスのいい個人商店が近所にあるようなーーそれは少し前の渋谷だったりするんだけどーーそもそもの文化資本の違いを感じる部分は強い。


tofubeats「DJをやりだしてから、東京に来ると同じ世代でも『ものが違うとはこういうことか』って思わされる事が多いんですよね。でも、僕は向こうになくて、こっちにあったモノを自分の個性にするしか無いし、その中にはショッピングモールもあるんです。僕がダメだったら、神戸に住んでる若者は絶望するしか無い(笑)。でも(日本全体を考えたら)ショッピングモールの方が受容してる人口は多いはずなんです」


——ただこれはイメージも込みだけど、tofuくんがリリースしていたmaltine recordの人たちは、そういった文化資本格差をインターネットで乗り越えようとしたとも思うんだよね。


tofubeats「それはポスト・トゥルースの話にも繋がるんですけど、確かにインターネットを利用して僕は世の中に出たけど、一方で、世の中が悪くなってる、少なくとも良くはないのはネットのせいじゃね?って話なんですよ。だから、僕らみたいに『ネットの寵児』みたいに思われた側は、それに対して応える責任があるなっていうのが、今回のコンセプトでもあって。インターネットを利用してきた人が、それに対する意見を出すのが大事なんじゃないかなっていう」


——ネットの恩恵を受けたというのはあると思うし、それは作品としても形にしてきたと思う。ただネットはインフラであって、「ネットの寵児」っていうのも他の人の捉え方だから、それに応える「責任」を感じるのは、誠実だとは思うけど、ちょっと大変すぎな気もするけど。


tofubeats「自分がネットを見ててキツいと思う事が多いんですよね。生きづらいな、って。ネットを利用してきたからこそ、そこに対する気持ちは表明したいんです」


——このアルバムとポスト・トゥルースに関する問題は他のインタビューでも話されているので、その部分は紙幅をとらないけど、そこに対する危機感は強い、と。


tofubeats「ポスト・トゥルースの一番のヤバさは、それぞれが真偽を受け止められない、判断できないって事以上に、『ぼんやりとした情報がなんとなく飛び込んで来る』ことだと思うんですよね。ブックレットにも『世の中が良くなくなってる』って書いてますけど、その印象自体、ホンマなんかなって。でも、良くなくなってるとしても、それを止めるすべが分からんし、これから良くなっていく想像すらできないっていう。でも、そういった事すら疑問に思ったり、どう思うって聞かれた事がない人の方が多いと思うんですよね。だから、そういう問いかけが出来て、あわよくば考えて貰えるような仕掛けのアルバムにしたかったんです」


——ブックレットでもそういういった漠然とした不安が一つのトーンになっているけど、一方で「チャーシューを買い忘れた」という話もその中にはあって。だから高尚な話ではなくて、市井の人の話だし、同時に市井の人がそういった不安の波の中にいるという怖さも感じさせられて。


tofubeats「他のインタビューで話してるSolangeの話もそうで、皆が落ちてるゴミを拾えば、道はキレイになるけど、でも『拾ったほうがいい』って伝えるのは難しいじゃないですか。『拾わなくていいじゃん』って言われたらそれまでだし。でも、そのゴミや道が自分に関係あると思えるか思えないのか、って事だと思うんですよね」


——それも想像力だよね。吉田健一が発して、ピチカート・ファイヴが更に広めた「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」という言葉があるけど、それとも通じる気がする。


tofubeats「人に働きかけることじゃなくて、自分を良くすることがまず大事っていう。だから、自分への問いかけをしたかったんですよね。そして自分にとっての『本当』を煮詰めて、リアルとしてどう出すかは毎回意識してるし、今回もそうですね」


——最後に具体的な話として、これからの動きは?


tofubeats「良い曲を作っていくという感じですね。外仕事もいっぱいオファーを受けてるので、それをコツコツ形にしていきます。動きとしては、台湾でのライヴがあったんですが、アジアでのライヴを増やしたいですね。英語圏じゃないところで、世界の中の地方で、もっと音楽をやってみたい。活動をあえて海外に向ける気はないけど、でも僕の作品にアクセスしようと思った時にし易いように、興味を持った人に提供できるようにしたいですね」






photography Satomi Yamauchi
interview & text Shinichiro JET Takagi
edit Ryoko Kuwahara
Special thanks MIU(http://miu-tokyo.com)





tofubeats
『FANTASY CLUB』
発売中
(Warner Music)
http://wmg.jp/artist/tofubeats/WPCL000012632.html


tofubeats
1990年生まれ、神戸在住。トラックメイカー/DJ。学生時代からインターネットで活動を行いジャンルを問わず様々なアーティストのリミックスやプロデュースや楽曲提供を行う。2013年4月にスマッシュヒットした“水星 feat.オノマトペ大臣”を収録したアルバム「lost decade」を自主制作にて発売。同年秋にはワーナーミュージック内レーベルunBORDEから「Don't Stop The Music」でメジャー・デビュー。2014年10月2日(トーフの日)に、豪華ゲストアーティストを招いたメジャー1stフルアルバム「First Album」を発売。同年、12月には森高千里とのコラボ・アルバム『森高豆腐』をリリース。2015年4月1日エイプリルフールにメジャー3rd EP「STAKEHOLDER」をリリース。同年9月に2ndアルバム『POSITIVE』、2017年5月3rdアルバム『FANTASY CLUB』をリリース。
https://tofubeats.persona.co/

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http://www.neol.jp/culture/

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