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Can’t live without Books : KITAZAWA BOOKSTORE(Jinbocho)/書店特集:北澤書店・北澤里佳(東京・神保町)インタビュー

NeoL / 2020年2月6日 17時0分

Can’t live without Books : KITAZAWA BOOKSTORE(Jinbocho)/書店特集:北澤書店・北澤里佳(東京・神保町)インタビュー


デジタル化によって多くの産業が変化を遂げる中、既存のシステムを覆し、自由で革新的なやり方で人々のニーズに応え、支持を得るインディペンデント系の企業/ショップが多く生まれている。本特集ではその中でも、時代を見つつも飲み込まれない確かな審美眼を持ち、スピードやしなやかさでもって、“消える”と揶揄された書物を多くの人々に普及し続けている書店に注目。第3弾は英米文学を中心とした人文科学系の分野の書籍を取り扱う老舗の洋書専門店、北澤書店の4代目北澤里佳。洋書の専門として知られる明治35年創業の北澤書店、その先人たちの思いを引き継ぎながらも、前職のファッション業界で得た知識を活かした積極的な改革によって古書の魅力発信に奮闘する彼女に、自身の考案によって生まれたKITAZAWA DISPLAY BOOKSやリニューアルなど、古書の文化を次世代に繋げるための様々な試みについてうかがった。

――お父様から北沢書店を継いで4代目を務めていらっしゃるということですが、幼少期から古書に囲まれた環境に育ってよかったと思うことはありますか?

北澤里佳「想像力を養えたし、本によって情報を沢山ため込むことができました。幼少のころ、父からは有難いことに本ならいくらでも買っていいと言われており、お店も家も本でいっぱいだったので、本は学生時代からたくさん読んでいたと思います。さらに古書も好むようになって、書き込みや蔵書票を見て以前の持ち主を想像したり、刊行年の時代背景を調べるなどして、学校では学べないような世界や歴史の一面を知ることもできたと思います」

――そのような環境から前職のファッション業界に入られたのはなぜだったんでしょうか?

北澤里佳「本は好きだったんですが、実は自分のお店はそんなに興味がなくて。20歳くらいの時に親から『お店を手伝ったらいいよ』と言われたのですが、当時の私には本屋さんが地味に映っていて、鳥籠に入るようで絶対嫌だと思っていたんです(笑)。それで古着やデザイナーズの服が好きだったことから洋服屋さんでお仕事をしたいと思い、バイトから始めて正社員になり10年間ほど働いていました」

――ファッション業界を辞めて、その鳥籠に入ろうと思ったきっかけは?

北澤里佳「自分のキャリアを考えた時にそろそろ次のステップに行きたいと思っていたのですが、将来ファッション業界で働いている自分が想像できなくなっていたんです。その悩んでいる時期にたまたまお店にふらっと立ち寄ったら、昔はとても盛況していたお店には、驚くほどお客さんがいなくて。その時初めて、なんとかしないと今まであったものがなくなってしまうと危機感を抱きました。とはいえ最初は自分に何ができるかわからなかったし、今から英米文学の書籍を買うお客様を新たに増やすのは時間がかかるし、将来性を考えてもあまり得策ではないと感じていました。だけどここにある本の装丁がとてもデザイン性が高いことを改めて感じて、自分の『ファッションが好き』という感覚にも訴えかけるものがあった。このような感覚や見方で英米文学の需要を増やせるのではないかと思って、思い切って転職を決意しました」









――デザイン性という共通点から新たなニーズを見出されたんですね。前職の経験が今のお仕事に活かされていると感じるときはありますか?

北澤里佳「むしろ、その経験がなかったらできていないことが多いと思いますね。ファッション関係のお仕事に就いていた時は店舗のVMDをやっていて、お店を魅力的に見せられる方法やおすすめ商品の打ち出し方などを勉強していました。その知識が今の本棚のディスプレイの作り方に活かされていると感じますし、そのおかげでKITAZAWA DISPLAY BOOKSのアイデアも浮かんだのだと思います」

――KITAZAWA DISPLAY BOOKSとはどのようなものなのか、具体的なサービス内容を教えていただけますか。

北澤里佳「主に洋書をディスプレイとしてお客様に提供するサービスです。モデルルーム、展示会、カフェなどに飾る洋書を求めている方や個人でご自身のお部屋に飾りたいという旨のお客様もいらっしゃいます」

――なぜこのような取り組みを始めたのですか?

北澤里佳「良いものを伝統としてちゃんと残して使いたいと強く感じていたからです。本はみなさんが思っている以上に廃棄量が多いんです。特にネットが普及されてからは、今まではどんなに素敵な装丁だろうが紙の本は、読まれる機会を失い、次々に捨てられるようになりました。だから思いきって値段を落としてでも、廃棄されないように本が廻転できるシステムを作りたいと思ったんです。本自体の読み物としての役割は終わっても、廃棄されず、誰かの家やモデルルームでまた使われるのはエコだと思うし、誰も悲しまないですから」






――素晴らしい取り組みだと思います。「映画に出てくる本棚をみるとその持ち主の個性を感じられるので、ディスプレイの参考にしている」とおっしゃっている記事を拝見しましたが、具体的にこの映画の本棚がすごいというものはありますか?

北澤里佳「そうですね。映画を観るときはだいたい昔から本棚に注目していました。例えば、本をびっしり置いている人は真面目な性格など、本棚は人柄が出るものでもあるんですよね。具体的には『アメリ』の本棚がとても凝っていた記憶があります。最近の邦画では『アルキメデスの対戦』。その時代の和書と専門知識の本がしっかり置いてあって、ダミーやイミテーションでは生み出せない緊迫感を感じたんです。調べたら、やはり提供先が専門の本屋さんでした。あのこだわりは素晴らしいなと感じました」

――そのような視点で映画を観るのも新たな発見があって面白いですね。ディスプレイを組む中で他にも参考にしているものはありますか?

北澤里佳「国内外問わず、建造物の本をよく読みます。建築物の曲点やレンガの造りなどを見て、それをディスプレイに具現化して落とし込むような作業をしますね。あと、美術館に行くことでも刺激を受けています。例えば、杉浦非水というデザイナーの作品を見た後に彼の色使いをディスプレイに落とし込んでみたら、和風っぽいけど洋書のイメージも残るようなものができました。ただ本を置くのではなくて、一つの作品を作るような目線でディスプレイを組むようにしています」









――それらのシュミレーションがあった上で、実際にオーダーを受けられた際にはどのようなことを大切にされていますか?

北澤里佳「お客様が何を大切にされ、どんな空間を好んでいるかをじっくり考えて、研究しています。最近、広島で開催されたウィリアム・モリス展に際して、架空のウィリアム・モリスの書斎を作るからディスプレイをしてほしいというオーダーがありました。洋書を初めて見た方にはどれも同じに見えてしまうかもしれませんが、実は年代や国によって紙の質が全く違うんです。だから、モリスが生きた時代と国を考えて、イギリスの19世紀の本を徹底的に集めてディスプレイさせていただきました。時代が違う本が紛れ込むと、誰が気づかなくてもその空間に小さな穴がプスっと開いてしまったような気持ちになってしまうし、逆にちゃんと作りこめばモリスが生きていた時代の生命力を感じられるものにもできる。インテリアとしてだけではなく、読み物に何かしらの連動性を作ってあげることで自然と空間に統一感が生まれ、空間の価値が高まると思うんですよね。知識を無視して『かわいい』でディスプレイすることは容易いんですが、そこは本屋さんとしてのこだわりを持って徹底して取り組むようにしています」

――まさに智のプロフェッショナルですね。店舗もリニューアルをされたそうですが、その際に新しく取り入れたことや変えられたことがあれば教えてください。

北澤里佳「まず、本棚にあいうえお順のような仕切りを作らないようにしました。そうすることで誰かの書斎に来たような気持ちになれると思ったんです。普通の本屋さんだと多くの人は本を買い終わったらすぐに家に帰るけど、うちの書店に来たらお客様がどこか懐かしく感じられて、家でリラックスしているような気分になれることを目指しました。香りに気を使ったり、ドライフラワーを飾るなどして、全体的に居心地のよい空間として楽しんでもらえるようにしています。また、スペース自体の活用として、スタジオという形で、映画や雑誌の撮影などで使ってもらう試みにさらに力を入れるようになりました。セットにはできない世界観を演出できるということで重宝いただいています。これからはワークショップを開いたり、ファッションや本が好きな人が集まって話し合いをするといった空間としての提供もしていきたいですね」

――確かにレジの空間も書斎のようで素敵です。他に、葉書やペーパーなど、小物の販売も目を引きますね。

北澤里佳「本の挿絵のページや、切手や葉書、マッチの箱などを扱っています。これらは古書を買うのはためらうけれど興味はあるという方たちに向けたもの。挿絵などは、時代も知れるしすごく勉強になるものもあるんです。例えば、刷らずに一枚ごとにイラストを描いている手彩色のものは、一点物としてプレゼントにも最適ですよね。本はもともと魂を込めて作られているものなので、その破片を持って帰って、家で額縁に入れて飾ってもらってもいいですし、文字を読めなくても『かわいい』から始まって興味を持ち、ネットで調べたりしてその挿絵の元の本がどんなものなのかなど時代背景を知ることもできます。こうした小物によって本に触れるきっかけ作りができたらいいなと思います」

――本を愛されている北澤さんならではのアイデアが随所に散りばめられているのだなと感服いたします。このように新しいことに挑戦されている中で、大変なことはありますか?

北澤里佳「『古本屋はこうあるべきだから、それを変えてまでお客さんはいらない』『良い本がありさえすればいい』という意見も時々耳に入ってきます。特にディスプレイに関しては、メディアで紹介されたこともあって、一時期は『本は読むものだから、かわいいとか綺麗で客を呼び込まないでほしい』などとSNSで厳しく批判されていました。それで落ち込んだこともありましたが、今では乗り越えて、誰も思いつかなかったことなのだからむしろ批判も光栄だ、と思えるようになりましたね」





――北澤さんは若手メンバーの多い明治古典会(同業者間の交換会)の経営員をされていて、そのなかにはご自身と同じようにお店を継いだ方が多くいらっしゃると聞きました。みなさんで古書店の将来についてお話されることはありますか?

北澤里佳「ボヘミアンズ・ギルドさんやけやき書店さんを始め、古本屋を継がれた20、30代と若い世代も活躍しています。みんなで両親が築いてきて、自分たちが育ってきた本屋さんをどうやって守っていくべきか、本の魅力をどう伝えたらいいのかということをよく話します。あと、若い人の入り口の作り方もよく議題にのぼりますね。明治古典会としては、一般の方も参加できるオークションなどのイベントを年に1回開いているのですが、より多くの方に古書に触れてもらえるよう常に考えています。他の専門の方の知識も学べますし、これからも同世代と積極的に話し合いを重ねながら、文学の文化や神保町の文化を守りたいと思っています」

――今後、新たに仕掛けていきたいことがあれば教えてください。

北澤里佳「日本だけでなく、海外にも目を向けていきたいと考えています。最近、韓国やベトナムなどのアジア諸国からインスタグラム経由でオーダーが入ってくるんです。日本だけでなく、特にアジア圏内は英語の本を置いて洗練された空間作りをするというニーズがあるようです。インスタグラムを活用して英米文学の紹介も少しずつ行なっています。実際にKITAZAWA BOOKSのおかげで英米文学を専攻することにしたと報告しに来てくれた若いお客さんがいて、とても嬉しかったですね。その子はこれから私よりももっと英米文学に詳しくなるんだろうなって(笑)。
また、女性だけのブッククラブのようなコミュニティーを日本に作ろうという案があって、古書店に限らず、書店に勤めている女性の方達と集まって皆で話をしているところです。読書会にとどまらない形で、本好きの人で交流して何か生み出せる会を作っていきたいと思っています」







北澤書店
〒101―0051
東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル2F
営業時間:平日11:00~18:30/ 土曜日 12:00~17:30/定休日 日曜祝日

TEL: 03-3263-0011
HP:
KITAZAWA BOOK STORE   http://www.kitazawa.co.jp/kindex.html
KITAZAWA DISPLAY BOOKS   http://www.kitazawa.co.jp/display.html
MAP:https://www.google.com/maps/place/Kitazawa+Bookstore/@35.6957459,139.7562778,15z/data=!4m5!3m4!1s0x0:0xf4f9ffbf5f9abcf2!8m2!3d35.6957459!4d139.7562778


格式ばった雰囲気がなく、つい長居してしまいそうなアットホームな雰囲気が漂う北澤書店。デザイン性の高い洋書の装丁に誰もが夢中になるはず。これをきっかけに英米文学にも手を伸ばしてみては?北澤里佳さんは柔らかい雰囲気の方だけど、仕事に対しての攻めの姿勢が格好いい。


photography Yukiko Shiba
text&edit Yukiko Shiba / Ryoko Kuwahara

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https://www.neol.jp/culture/

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