声を出さない身体言語として形をもち、街に沈み、染み入るーー森栄喜による個展「シボレス | 鼓動に合わせて目を瞬く」
NeoL / 2020年8月11日 18時30分
「Shibboleth—I blink my eyes to the heart beats」© Eiki Mori, Single Channel Video with Sound, 2020, Courtesy of KEN NAKAHASHI
KEN NAKAHASHIでは、2020年8月5日(水)から9月6日(日)まで、森栄喜による個展「シボレス | 鼓動に合わせて目を瞬く」を開催。
初のサウンドインスタレーションを発表した「シボレス | 破れたカーディガンの穴から海原を覗く」に引き続き開催する本展では、新型コロナウィルス感染拡大防止の緊急事態宣言下、3月から5月にかけて、人通りがまばらな東京の夕刻の街中で行ったパフォーマンスを記録した新作映像作品、「シボレス | 鼓動に合わせて目を瞬く」を発表する。
辿々しく唱えられた合言葉=シボレスが、声を出さない身体言語として形をもち、街の風景やサウンドスケープの中に沈殿し、染み入っていくようだ。
森栄喜 ステイトメント
今春、コロナ禍で人もまばらな夕刻の街角で、15の合言葉(シボレス)とともに、私はひとり、パフォーマンスを行いました。
「屋上で笑い声を再生する」や「ごめんねと言うかわりに3ページめくる」、「鼓動に合わせて目を瞬く」など、合言葉の中で描写した動作をもとに、手旗信号のような明確さも持ち合わせつつも、身体で詩を朗読しているような静謐で瑞々しい動きを、全ての合言葉に振り付けました。ささやかに、時に大袈裟に身体言語に翻訳された合言葉は、住宅やビルの隙間からまっすぐに届く夕陽の光によって、塀垣に、給水タンクに、むき出しのコンクリートの柱に煌々と照らし出されます。
言葉に宿った感情や記憶は、脳内だけには留まらず、自分自身の身体、あるいは、それすら通り過ぎ、他者や場所、SNSなどの「外在するたくさんの自己」の間を自由に泳ぎ、流れ、混ざり合い、蓄積していきます。
私の身体を通して唱えられる合言葉は、私が暮らす都市の狭間に投影され、まるで楽譜に書き綴られる音符のように、ひとつひとつ、弾みながらも深く刻まれていきます。そして遠くに暮らす大切な家族や友人たちの発する合言葉とも呼応し、変化し続け、巡り巡り、全く新しい合言葉として、再び私や彼ら彼女らの耳元に舞い戻ってきます。
もう会えない人へ、なかなか会えない人へ、これから出会うだろう人へ。
遠い記憶へつながる合言葉とともに、そして身体中に響くたくさんの声とともに、今日も、眩い光の中で、私たちは踊っています。
森 栄喜
2020年7月
森は、セクシャルマイノリティーをはじめとする多様性のあり方を主題とした写真作品で特に知られているが、近年では、映像、パフォーマンス作品、文章や詩など、多岐にわたる表現方法を展開してきた。近年のパフォーマンス作品では、自らの体験や記憶を交えた「詩」の朗読や、他者との共演により、自己と他者の境界を探り、身体的な対話を試みてきた。それらは、ともすれば消えてしまいそうな小さな声を、小さな声のまま、公共に開き、そこに生まれる親密性を可視化する試みともいえる。
過去2度にわたるKEN NAKAHASHIでの個展開催を始め、2018から2019年にかけて東京都写真美術館で開催された「小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家vol.15」展や、2017年と2018年、2度のフェスティバル/トーキョーへの参加など、美術館や芸術祭でも積極的に活動を続け、ジェンダーやセクシャルマイノリティーを取り巻く環境について、様々な意見を導き出してきた。
これらの写真集や、展覧会、自らの体験や感情を交えた「詩」の朗読のパフォーマンスなどを通じて、セクシャルマイノリティーをはじめとする多様性のあり方について自身が体感する「問い」を、社会や公共空間に投げかけ、社会の中で見過ごされてしまうかもしれないものに森自身も参与し続けてきた。これらの森の活動は、国内外でも広く反響をもたらし始めている。
「シボレス | 鼓動に合わせて目を瞬く」
2020年8月5日(水) - 9月6日(日)
KEN NAKAHASHI (160-0022 東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)
事前予約が必要です: https://airrsv.net/kennakahashi/calendar
開廊時間: 水・木・金 11:00 - 19:00、土・日 11:00 - 17:00
休廊: 月・火
森栄喜
1976年石川県金沢市生まれ。パーソンズ美術大学写真学科卒業。写真集「intimacy」(ナナロク社、2013年)で第39回木村伊兵衛写真賞を受賞。近年の展覧会に個展「Letter to My Son」(KEN NAKAHASHI、2018年)、グループ展「小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家 vol.15」(東京都写真美術館、2018-2019年)など。その作品は、SUNPRIDE FOUNDATIONや東京都写真美術館などのパブリックコレクションを始め、数多くの個人コレクターに所蔵されている。
関連記事のまとめはこちら
https://www.neol.jp/art-2/
外部リンク
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