オバマの「対ロシア譲歩演説」の意外な評判とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2013年9月12日 13時58分
クーパーは基本的に「空爆反対」という立場で、いわば視聴者代表を自認しながらオバマ演説には批判的なトーンで議論を回していましたが、コソボからリビアまであらゆる戦場の現場報道に徹してきたアマンプールとか、ヒラリー・クリントンの下で国務省の中枢にもいたスローターというような人からは、このオバマの「ロシア案に乗りつつ、攻撃の姿勢は引っ込めない、しかも議会には議決延期を要請する」というスピーチには一定の評価がされていたのです。
特にディスカッションの中で、スピーチ直後の簡易世論調査が発表されて、大統領の「軍事行動を辞さず」という姿勢への支持が、演説前の「30%」から演説後には「39%」にアップしたという速報が出たのですが、スローター教授は「世論の中でも、分かる人間には分かるんだ」というような顔で、「スピーチの効果はあったようですね」と述べていました。
では、こうした中道実務派の人々はどうしてオバマ演説を評価するのでしょう? また世論の一部も演説にプラスのイメージを持っているようですが、それはどうしてなのでしょうか?
それを理解するカギは、例えば9月11日付の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたトーマス・フリードマンのコラム『脅威に対する威嚇("Threaten to Threaten")』でしょう。フリードマンは、「多くのアメリカ人が戦争を望まず、また陸上兵力の投入を支持する人間はほとんどいない」という現状において、オバマは「大統領権限で軍事力行使という威嚇」を行っており、議会はあえて反対決議をせず、また国民はその状況を静かに見守ることで、オバマの「脅威に対する威嚇」を有効なものとしているという「複雑な解説」をしています。
ところで、現在ケリー国務長官はロシアの当局者と「実務的にシリアの化学兵器を国際管理に移すことが可能であるかどうか?」の詰めを、ジュネーブで協議中です。この点に関しては、そもそも激しい内戦が進行中のシリアでは、化学兵器の安全な移動は不可能という観点からの「疑問」が専門家の間から出ています。その一方で、ケリー長官はロシア側に「実は反政府勢力の中に反ロシア派というのがあって、彼等の手に化学兵器が渡るとロシアに危険が及ぶ」という情報を示して「威嚇」しているという情報もあり、相当に高度な「化かし合い」が行われているという見方もあります。
いずれにしても、今回の演説は「混乱状態をそのまま世論に投げた」とか「支離滅裂」という印象で受け止められてはいません。また大統領が弱さを露呈したというニュアンスで受け止められてもいません。少なくともオバマは「複雑な状況を整理して示した」というのは多くのアメリカ世論の評価であり、その一方で「大統領へのアンチ」が多いのは、あくまで「他国の政権崩壊を狙った軍事行動はもうコリゴリ」という左右両派からの厭戦論が大変に分厚く根深いからだと思います。
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