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法人税を減税して賃上げを求める珍妙な税制改正 - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2013年9月24日 19時29分

 迷走を続けた消費税の増税がやっと決まり、10月1日に安倍首相が経済対策とともに発表する予定だ。この中で、消費税の8%への増税とともに法人税の復興増税が1年前倒しで廃止され、税率も下げる方針だ。野党は復興増税の廃止を批判しているが、これは総合的な財源を確保すればいいので、法人税にこだわる必要はない。

 問題は、法人税を下げる対象として「3%以上の賃上げを行なった企業」という奇妙な条件がつけられることだ。これは今年度から導入された「所得拡大促進税制」で、5%以上の賃上げを行なった企業にその原資の10%を法人税額から差し引く措置の条件を3%に緩和するものだという。

 これは野党の「増税で消費者の負担が増えるのに企業が減税されるのは不公平だ」という批判をかわすためだと思われるが、トバイアス・ハリス(本誌コラムニスト)もいうように「お笑いの政策」で、日本の政治家が法人税を理解していないことを世界に知らしめる税制改正である。

 法人税を負担するのは「法人」ではない。企業は多くの個人からなるので、たとえばトヨタ自動車にかかる法人税は、株主への配当や賃金の原資を減らし、地元の雇用も減らす。このように法人税は、最終的には多くの個人に転嫁される。労働者は減税の最大の受益者だから、賃上げを条件にする必要はないのだ。

 法人減税は、消費増税を埋め合わせる「景気対策」にもならない。企業の目的は税引き前純利益の最大化であって、これは法人税率にも消費税率にも依存しないから、国内企業の行動は変わらないのだ。

 しかしグローバル企業にとっては、主要国でアメリカに次いで高い日本の法人税率は重要な問題である。前にも当コラムでみたように、シンガポールや台湾などは日本企業を誘致するために法人税を下げており、実効税率は日本の半分ぐらいだ。おかげでトヨタやホンダも、最新鋭の工場はもう日本に建てない。

 このような租税競争は激しさを増しており、今や世界の資金の半分はタックスヘイブン(租税回避地)を通るといわれている。対外総資産の残高でみると、トップはイギリス(6800兆ドル)だが、第4位の日本に次いで世界最大のタックスヘイブンであるケイマン諸島(1900兆ドル)が入っている。

 このようなタックスヘイブンを使った節税技術は、企業のグローバル化とともに高度化し、今年もアップルがアイルランドなどの現地法人を使って法人税を10%しか納めていないことがアメリカ議会で問題になった。OECD(経済協力開発機構)も閣僚理事会でタックスヘイブン対策を強化し、国際協調を呼びかけている。

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