『あまちゃん』とJR北海道、そして過疎・高齢化を考える - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2013年9月26日 14時32分
では、その「うまい着地」ですが、私にはそれが何かはまだ分かりません。バラマキではダメなことは、もう分かりきっています。同じ地方での鉄道の問題ということでは、『あまちゃん』に出てくる「北三陸鉄道」にしても、ドラマは決して「第3セクターを公的資金で救うことが100%の正義」だとは言っていません。「駅長の大吉さん」というキャラは、鉄道を守ろうとする姿勢の象徴ですが、同時にそのウラには厳しい現状を語らせる視点も入っているからです。
なかには、現在の高齢者は「日本経済の好調期に現役だったラッキーな世代」だとして、その経済力を強制的に移転するなど「世代間格差の是正」を行うべきだという論もあります。ですが、この世代も一旦引退すると、老後の生活と健康の不安を抱える中で、必死に生きていくしかないのです。そうした高齢の世代に対して、リスペクトを払うことなく、どんどん追い詰めていくことは果たして正しいのでしょうか?
この問題に立ち至ったところで、私はこの『あまちゃん』の「鈴木のばっぱ」のことを思い起こしました。全国の過疎地には、この「鈴木のばっぱ」のようなお年寄りが沢山いるのだと思います。これからの日本は、過疎・高齢化に対応するために改革からは逃げられません。ですが、その改革の中で、そうした高齢者の顔から笑顔が消えるようであってはならないと思うのです。
甘いロマンチシズムで言っているのではありません。高齢者を切り捨てたら魂が汚れるというような感情論で言っているのではありません。そうではなくて、世代から世代への文化や知恵や記憶の継承が、家族のレベルでもコミュニティのレベルでもできなければ、日本には何も残らないのです。上の世代と喧嘩別れして行くのが改革だというのは、間違いなのだと思います。
その辺りから、山本氏の言う「うまい着地」の手掛かりを探して行くことができればと思います。地方と中央、高齢者と現役世代と若者世代、それが理解し合い、対等にリスペクトしあう中から、何か「新しいもの」を生み出していく、もしかしたらその積み重ねにしか「着地」はないのかもしれません。そんなことを考えつつ、残り2回、30分となった『あまちゃん』の結末をじっくり味わいたいと思います。
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