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「国際成人力調査」日本トップは喜べるのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2013年10月15日 10時58分

 そうであるならば、実際に受験した層は「本当に無作為抽出された層」よりも、ITスキルの面で上位層というバイアスがかかり、調査全体にもバイアスがかかっているのではないか、私はそうした印象を持ちました。日本のカルチャーの中にある「恥の概念」とか「何でも上下関係に位置づける」という問題はこうした調査の場合、無視できないと思うからです。

 仮にそうしたバイアスがかかっていたとして、それでもIT問題解決スキルが低いというのは、相当に深刻だと思います。コンピュータより携帯でネットに接続している人が多いなどという言い訳だけではダメで、根本的な問題を感じます。

 また米英の調査結果については、確かに日本より数学も言語も相当に低いのですが、ウラを返せば、数学や言語の基礎能力が非常に低い層でも「恥の概念がないので喜んで調査に協力している」ということ、それ以上にスキルの低い層が「(日本と比較して)コンピュータは立派に使いこなしている」ということは言えると思います。

 調査そのものの評価に関して問題を感じたというのはそういうことです。

 2点目は、仮にそれでも調査結果の示す「日本は数学と言語のスキルの高い分厚い中間層が存在している」ということが事実だとして、現在そして将来の日本社会はそうした人材を活かしていけるのかという問題です。

 この調査の中でも、仕事の要求よりも学歴の方が高い「オーバー・クオリフィケーション」という「学歴の高すぎるミスマッチ」現象は、日本の場合は31%に達していて「最も高い国の1つ」だとされています。日本社会が人材の能力を活かしきれていないということは、データとしてもその徴候が見えます。

 そもそも「天才は少ないが、スキルの高い中間層」が「日本のものづくりの原動力」などと言いながら、その「ものづくり」の現場では作業レベルのプロセスはどんどん国外に出しています。つまり「分厚く優秀な中間層」が活躍できる仕事は減っているわけですし、これからは更に減って行くかもしれません。福祉やサービス業で内需拡大などという中では、世界一(?)の数学や言語能力の活用は難しいでしょう。

 事務作業が正確だとか、社会全体に整然とした秩序がある、あるいは食文化が高い衛生意識に支えられているなどといった「優秀な中間層が支えてきた」カルチャーも、「その能力に見合う報酬が払えない」中では衰退して行くことになると思います。そうなると、雇用と教育は質的な面でのマイナスのスパイラルに入ってしまいます。

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