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民主政治は最悪の政治形態だが、それは他よりましなのか - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2013年10月15日 15時3分

 アメリカ議会の混乱はまだ続いており、連邦政府の一部の業務が止まったまま半月が過ぎた。15日現在でもまだ民主党と共和党の妥協は成立せず、17日までに債務上限が引き上げられないと、政府が債務不履行に陥るおそれがある。アメリカ議会も「決められない政治」になってしまったことは、民主政治の病の深さを感じさせる。

 この騒動をみて日本人が奇異に感じるのは、「決められる政治」のシンボルのように思われている大統領が無力なことだろう。日本の政治改革で、よく首相公選とか「大統領的首相」にすべきだなどと言われるが、本家のオバマ大統領は何もできず、議会の中での駆け引きで「チキンゲーム」が続いている。

 実は、アメリカの大統領の権限はそれほど強くないのだ。大統領は最高司令官だが、宣戦布告の権限は議会にしかない。日本の法律の9割は政府提出法案だが、ホワイトハウスには法律の提案権さえない。予算も議会が提出し、大統領は予算教書で方針を提案するだけだ。閣僚も上院が承認しなければ任命できない。おまけに大統領の与党が議会で少数派になる「ねじれ」もよくあり、党議拘束がないので「造反」も珍しくない。

 このように意思決定が複雑で非効率的なのは、もともとバラバラの国(州)を集めてつくった建国の経緯による。上院議員は州議会が選出し、大統領も国民が直接選べないで「選挙人」を選ぶ。連邦派と各州の妥協の結果、各州のトップは「統治者」(governor)なのに、連邦政府の元首は「座長」(president)という弱い名称になった。

 合衆国憲法がこのように「弱い民主政治」になったのは、建国の父の制度設計による。アメリカ独立革命(1776年)のあと起こったフランス革命では、主権在民の思想のもとに王制が倒されて共和制になったが、恐怖政治と流血の惨事のあと、わずか5年でナポレオンの独裁政治になり、ナポレオン戦争を含めて490万人の死者を出した。

 こうした状況をみたエドマンド・バークなどのイギリスの政治家は、国民が法を超える「主権」をもつという思想は危険であり、主権がナポレオンのような独裁者に譲渡されると容易に独裁政治に転じる、と民主政治のリスクを警告した。その結果、合衆国憲法には「国民主権」も「天賦人権」も規定されていない。国家の究極の決定は、非人格的な法の支配によって行なわれるからだ。

 だからアメリカで最高の権威をもつのは、司法である。よくも悪くもアメリカではすべてが法律で決まり、紛争は裁判で決着がつけられる。2000年の大統領選挙も、最終的には連邦最高裁が大統領を選んだ。今回も17日のデッドラインを突破しても、大統領権限で債務の上限を引き上げる最後の手段があるが、この場合も連邦最高裁の憲法判断が必要になるそうだ。

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