シリア首都で暮らす市民のリアルな日常
ニューズウィーク日本版 / 2013年10月21日 14時6分
ヤシールの仕事はスポーツクラブのトレーナーだが、内戦のせいでほとんど失業状態だとぼやく。この1年で富裕層の多くが国を去ったため、ヤシールが個別指導を担当する客は数人にまで減少した。
仕事がないから「退屈な主婦」のような生活だと、ヤシールは言う。「家にいる時間がほとんどだから、うちの女たちとおしゃべりするか、メロドラマを見て時間をつぶすしかない。体重もかなり増えてしまって、自分で自分が嫌になるよ」
スポーツジムが社交の場
職場に行けば、運動や健康維持にまじめに取り組もうとしない客に腹が立つ。今でもダマスカスでは数軒のスポーツクラブが営業を続けており、会員数は増加しているという。料金はこの1年で2倍の月20ドル相当になったが、利用者は文句も言わず払っているようだ。
ヤシールは言う。「こんなにスポーツクラブが混んでるのは見たことがない。要するにみんな、ほかに行く所がないんだ。トレーナーとしてはいらいらするよ。みんな体を鍛えるためではなく、友達と会うために来てるんだから。クラブの外に一歩出た途端にたばこに火をつけたり、その足で水たばこを出す店に行ったり。そしてみんなジャンクフードを食べるんだ」
だが少なくとも、ジムに行くということは家を出ることになる。キンダは、最近は友人たちと会うのもほとんど自宅だと語る。「夫が仕事から帰ってくるまでの間、家で女ばかりの集まりを開くの。ほとんどが近所の人よ。水たばこを用意してお茶を入れ、デザートやフルーツも並べたら、その周りに座っておしゃべりする」
キンダの11歳の娘ヤラは、いたずらっぽく笑ってうなずいた。「そうそう。みんなでたばこを吹かしてる。そしてみんなすごく太ってる」
冒頭のファティマは肥満とは無縁だ。何せ今月だけで6キロも体重が減ってしまったのだから。原因は分からない。
「精神的なものだと思うわ」とファティマは言い、ぶかぶかになってしまった服の両脇を広げた。「体重計に乗るたびに痩せていっているのが分かるの」
痩せたのはあくまで内戦のもたらしたストレスのせい。何か悪い病気が隠れているわけではないと祈るしか、今のファティマにはできない。だいたい、故郷モアダミヤに残った友人たちや近所の人々のことを思えば、自分は運が良かったのだから......彼女はそう自分に言い聞かせている。
[2013.10.22号掲載]
ラシャ・エラス(ジャーナリスト)
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