「革命家」が息を吹き返す? - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2013年10月21日 20時14分
前代未聞の祝賀式典で何が語られるのか、注目が集まった。だが、実際にはそのスピーチ、あるいは出版物や番組で語られる故人の姿は中国の元指導者の一人を描く伝統に違わず、前向きで偉大な父親、指導者像だった。中国の政治事情を知る者ならそこにはそれほど期待も、また意外性もない。だが、やはり「現国家主席の父」の意味は絶大なものがある。いやでも人々の目はそこに集まった。
習仲勲には毛沢東と同世代の指導グループの一員として誰もが知っている「過去」があった。文化大革命時代(文革)の失脚だ。すでに中国の歴史において否定的に語られている文革だが、はっきりと政治の場で持ちだされて語ることは忌避されてきた。それはイコール毛沢東への評価につながってしまうからだ。毛沢東色がかなり薄まった感のあった胡錦濤、温家宝時代でもさすがにそれははばかられたのだから、党総書記就任以降たびたび毛の名前を出している習近平が毛の批判につながるようなことをするとは考えられなかった。
結果から言うと、「うまいことやった」というイメージだ。この「うまい」とは決して好意的に受け取られているという意味ではない。だが、毛沢東との関係をさらりと触れるに止め、逆に毛沢東とともに革命家として人民の側に立ったという形で強調し、毛と習ではなく、習と人民との関係にすり替えることで、「歴史の汚点」を隠し通したのだ。
さらにそこでは、習近平ら兄弟も父が毛沢東一派の迫害を受けている最中に生まれたために子供の頃からつましい生活を迫られたこと、父に厳しく育てられ、「控えめに生きるよう」しつけられたと強調された。習仲勲の伝記には親の威光や影響力を利用して蓄財に走る「官二代」に対する批判もみられたと伝えられている。
確かに1978年に広東省政府党委員会の第二書記として地位を取り戻した習仲勲は当時の指導者鄧小平の下、香港と隣接する同省で第一書記、省長を歴任し、香港との窓口だった深圳を中国初の経済特区とすることに成功、前線に立って「改革開放政策」を推進する立場に立った。今でも広東省は、北京や上海ほど大きくはないが香港に隣接し、省全体の意識は開放的だとされる。今回のキャンペーンではこの「改革の設計師」と言われた鄧小平に並べて習仲勲を「改革の工程師」という位置付けに置いた。もちろん、その、改革と開放の先駆者の遺志は息子である習近平に受け継がれている、という暗示がある。
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