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中国のなかのアメリカ - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2013年11月22日 6時18分

 だが、もしこれがロック大使ではなく、中国のトップリーダーの言葉としてでっち上げられたものだったらどうなるか。ネットユーザーにはウケるだろうが、さっさと書き込みは消され、微博アカウントが「減点」されるだろう。今年9月から大手の「新浪微博」がアカウントごとの点数制を導入したからだ。最初の手持ちは80点。デマを転送したとみなされたら1回毎に5点減点される。そして75点、60点、40点と点数が減るごとにそれぞれ、推薦枠を取り消されたり、フォロワーを増やせなくなったり、書き込みが他人のタイムラインに現れなくなったりする。点数がゼロになればアカウント凍結。一方で点数を稼ぐために「他人が流したデマを報告する」という大変なチャンスが与えられているのである。

 微博アカウントくらい消されたってどうでもいいさ、という人もいるだろう。聞くところによると、アカウント開設と削除を200回以上も繰り返している人もいるという。そのユーザーの根性もなかなかのものだが、さすがに多くの人たちはそこまでやらないはずだ。しかし、ただの冗談で流したつもりのつぶやきをたどって自宅のドアに警察がやって来れば、ほとんどの人はビビってしまうだろう。

 つまりアメリカ大使を利用して軽口を叩いても、自国のトップを笑いの対象にしてはならないことにほとんどの人が気がついている。そこには尊敬や尊重(北朝鮮のように?)といった感情は存在しない。ダメだからダメ。人々はその「違い」をはっきりと知っている。

 だからこそ、ロック大使が着任時に立ち寄った空港のスターバックスで他の客と同じように列に並び、ディスカウントクーポンを使ってコーヒーを買おうとしたこと、飛行機から下りた一家が子供たちも大使自身もそれぞれバックパックを背負っていたことが、中国の人々の目にはとても新鮮に映った。そこには権威や神秘性などない。そしてアメリカや大使を標的に冗談を言っても、アメリカ大使館のアカウントはいちいちイライラしないことを知った。

 中国の政府系メディアですら何を書いてもいいと思っているのか、「ロック氏は子どもに良好な教育を受けさせたいと考えている。大使の給料では足りないからではないか」などというトンデモ記事を載せていた。先の書き込みもこの記事もアメリカ人の視点ではなく、今の中国人の価値観を見事に反映したもので思わず笑ってしまった。だが実際には、王立軍事件の処理も、また状況が二転三転して一度は窮地に陥り、解決に手こずった陳光誠氏一家の出国も、その判断と功績を人々は受け入れた。明らかな冷戦思考的な立場を取るメディアを除けば、ロック氏の功績に好意的な評価をしている。

 わたしのツイッターには中国語でロック氏辞任表明のニュース、日本語でケネディ駐日大使就任のニュースがほぼ同時に流れてきた。「なんでアメリカは日本には美女を派遣するのに、中国には中年のおっさんしか送ってこないんだ。差別だ! 不公平だ!」と、先の国営テレビのスターバックス叩きに激しく反発した中国人ユーザーがその時のアナウンサーの言葉を皮肉るようにつぶやいた。

 アメリカあっての中国。中国人は本当はそんなアメリカが大好きなのだ。




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