産むべきか産まざるべきか......一人っ子政策緩和がもたらすもの - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2013年12月2日 21時0分
結局、こうして「2人目を産む権利」を持つ人たちの多くが「1人で結構」という決断を下す。こうして人口問題の研究者が言う「増えても200万人がせいぜい」という数字がはじき出された。だが規制が緩和されるというのにこの悲観的な数字には真実味がある。というのも、今回2人目出産が許されたのは「夫婦どちらか片方が一人っ子」の場合だが、実際に現状では「夫婦ともに一人っ子」の場合はとっくに2人目の出産が認められている。だが、一人っ子世代が適齢期に入ってからも、出生率は大きく増えていない。間違いなく一人っ子世代は2人目を、彼らの親の世代ほど求めていないということになる。
一方で、農村で実施される暴力的な一人っ子政策がこのところ次々とメディアに報道されて人々の眼に入るようになった。だが、農村戸籍者が農村に縛り付けられる戸籍政策も今後緩和されると噂されている。それによって実際にじわりじわりと農村の都市化を進め、農業から商業へ、工業へと労働力の配置転換が行うという経済の底上げが計画されている。その結果、今後社会の都市化が進み、農村出身者でもだんだん、現在の都市労働者と同じように福利や年金の問題に直面する人が増えるだろう。やはりそこでも多産で生活を支えていくことが容易でないことが認識されるはずだ。
「こんなことになるなら、一人っ子政策なんてやらなかった方がマシだったんじゃないか」そんな声も漏れている。たとえ一人っ子政策を実施していなかったとしても、いわゆる「人口のボーナス」がいつまでも続くとはさすがに思えないが、総人口が多いだけに政策によるブレはあまりにも大きい。だが、どう見てもすでに労働人口の減少と人口構造の変化を食い留めるのは不可能なようだ。
それにしても、これまで海外では激しく「非人道的だ」と批判されてきた「一人っ子政策」緩和のニュース。子ども好きの中国人にとっては喜ばしいニュース扱いになるのかな、と思っていたら、その解説記事はどれもかしこも「人口のボーナス」「労働人口」という経済事情優先の語り口で、なんともはや、という気がする。
その陰でとたんに再び注目されたのが、今年春に流れた、映画監督の張芸謀氏に7人の子どもがいるというニュースだ。「一人っ子政策の下で7人も?」と人々を驚かせ、実際に海外で2人目や3人目を産む「カネ持ちや有名人」に対するやっかみとともに激しく攻撃された。
だが、意外にもこのところ浮上してきたのは、「御用映画監督に成り下がった張芸謀は嫌いだが、彼は自然な権利を遂行しただけ。彼は人間としての自由な権利の擁護者だ」という声だ。「法の下での平等性」よりも「理不尽な法に対する怒り」を論じる人たちが張芸謀氏を支持し始めた。「2人目を産みたくても経済環境が許さない。それが出来る人が産むことを制限する必要はないはずだ」という声もある。
もしかしたら、家族の関係や情愛といったことを話題にすることでこうした「自由意志」に触れ、その結果政府の「禁区」に入っていくのを避けようと、メディアは「労働人口」「人口のボーナス」といった経済理由で「産む、産まない」を語っているのだろうか? もしそうであるのなら、「出産は個人の自由な権利」と人々が叫ぶきっかけを作ってくれた張芸謀氏には感謝すべきなのかもしれない、わたしも映画監督の彼は嫌いだけど。
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