年末年始はアラブ映画で - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2013年12月28日 15時14分
映画では、DAMがパレスチナ人の子供たちに対して、ラップの歌い方、作り方を教えるところがあるのだが、それこそが音楽のもつ力をビビッドに表している。現状に対する不満、憤り、将来への不安・・・・。イスラエル国内と占領地でパレスチナ人たちの若者が抱えるあらゆる鬱屈を、爆発するまで押し込めようとする現実の政治に対して、握りしめた拳をマイクを握る手に変えて、体を爆発させるのではなく声と言葉を爆発させて、パレスチナ人社会に一石(本物の石じゃなく)を投じる。
印象的なのは、こんな「一見イカれた兄ちゃん」たちに、周辺のパレスチナ社会がとても暖かく、誇りに思っていることだ。彼らがパレスチナのラジオ局に出演するシーンがあるのだが、年配のDJが滅茶苦茶「お堅い」標準語のアラビア語で、ラッパーたちを丁重に紹介するのが、笑える。しかも、「先生」という敬称までつけて。
アラブ文学研究者の友人、山本薫さんにこの映画のことを教えてもらった2009年、あまりに感動したので2人でサッローム監督を日本に招聘して、特別に英語版を上映させてもらった。渋谷「アップリンク」の会場80席、わずか一回の上映に、集まった人数は200人を超えたのではないか。急遽アップリンクにお願いして、2回の上映とした。上映後は感動の嵐で、ぎゅうぎゅう詰めになりながら見た人たちは深夜まで熱く感想を語り合っていた。あれから日本語版ができるまで、3年という月日が経ったが、その感動は変わらない。
ピーター・オトゥール演じる「アラビアのロレンス」は、映画の終盤でファイサル国王に「取り引きは老人の仕事だ、若者は戦い、戦いの美徳は若者の美徳だ」と言われて、パレスチナの地を去る。「自由と壁とヒップホップ」を見ていると、「老人の取り引きはうんざりだ、若者は音楽で戦う」と言うラッパーたちの声が、聞こえる。
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