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アカデミー賞候補入り、日本人夫婦の素顔

ニューズウィーク日本版 / 2014年1月20日 16時46分

 一緒にいていいのは、例えば旅行で海に行ったとき、誰か自分の荷物を見てくれる人がいないと困るでしょ。そういう2人でいたほうが便利なことは世の中にいっぱいあるわけじゃない。だから結婚っていうのは愛情だけじゃなくて、効率性っていうのも1つの形だと思うの。

有司男 僕たちアーティストで、しかも外国で成功しようとしてるわけだから、協力し合ったり情報を共有できるのがいい点かな。一緒に美術館に行って、絵を鑑賞したりね。夫婦の会話が豊かになっていくしね。

乃り子 1人で見たほうがいいよ。うるさくてしょうがない。

有司男 そのやりとりがまた面白いんだよね。俺がしゃべり過ぎるから、「黙ってろ」ってね。だからすごい僕たちはうまく機能してる。夫婦、同じ職業で。

乃り子 自分がそう思ってるだけでしょ!

有司男 どろどろでけんかしてるのが僕たちで、面白いんだよ。

乃り子 映画の中で、有司男が日本に行って家を空けるシーンがあるでしょ。その静かな空間で、私がどれだけ豊かに過ごしていたことか。

有司男 それはだから相対的な話で、たまにあるからいいんだよ。ずっと静かだったら、寺みたいな家で全然楽しくねえよ。

──「キューティー」シリーズで注目され始めた妻に嫉妬は?

有司男 あるよ。夫婦でも絵になると競争相手になるからね。それがないと刺激し合えない。乃り子の絵は、あの単純明快なところが受けてるわけよ。で、僕のはぐちゃぐちゃで分かんないって言われることがあるよね。

乃り子 「単純明快」っていう表現は、私の絵には合わない。

有司男 あっ、単純じゃなくて複雑明快か。それもおかしいな。線は単純だけど内容は濃い、か。

乃り子 ぜんぜん線も単純じゃないし、みんなきれいだって評価してくれるじゃない。

有司男 いちいち褒めなきゃなんねえからな、夫婦なのに(笑)。



──別れようと思ったことは?

乃り子 若いときは純粋だから、すごく彼を愛してた。作品にも人間性にもほれて。ところが、だんだん自分のサングラスがずれてくるわけよ。何これって、本当の姿が見えてきて。

 でも家を出ていくためには自分の絵で稼げるようにならなきゃ。絵が売れないのに出ていくと、ほかの仕事で稼ぐためにアートをやめなきゃいけない。それだけはできなかった。女性として屈辱的な気持ちがいつもあったけど、絵を続けるためには仕方なかった。

 それにどんな飲んだくれでも、息子のために父親が必要だと思ったから。そうこうしているうちに06年、彼が急に呼吸困難になって病院に担ぎ込まれたのよね。

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