東日本大震災と戦争被害をつなぐ - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月21日 11時22分
東日本大震災で74人以上の生徒が津波に呑まれた、石巻市の大川小学校の惨事について、19日、検証委員会の報告が発表された。ちょうど1週間前、私を含めた国際政治を専門とする研究者たちは、その小学校跡を訪れたところだ。
なぜ、中東研究の私が被災地を視察するのか、疑問に思われるだろう。だが、震災も戦争も、当たり前の日常社会が根本からひっくり返されてしまうという点でよく似ているし、災厄からの復興に際して直面する障害にも、いろいろな意味で共通点がある。
私たちは極寒のなか、大川小学校を訪れたのはほんの一時間程度だったが、崩壊した学校を前に遺族の話を聞くにつれて、情けなさでいっぱいになった。生徒たちは、地震直後に校庭に集められた後、51分の間なにも行動を起こせないまま、いよいよ津波が来るという時になってようやく移動を開始し、ほとんどの生徒が波に呑まれたのだという。生徒のなかには、校庭に隣接する山に逃げよう、と主張する子供もいたが、山は危ないという理由で、静止された。それでも山への脱出を決行して、命が助かった者もいる。だが、検証委員会では、そうした子供の声や遺族の証言が、無視され続けてきた、というのだ。(その経緯は、池上正樹「あのとき、大川小学校で何が起きたのか」青志社、に詳しい。)
中東でさまざまな戦争、内戦の被害者を見てきて、何が共通しているかといえば、理不尽に命を奪われた者の死に、意味を与えてやりたい、という遺族の思いだ。なぜ自分の子供が、伴侶が、親が、友人が命を奪われなければならなかったのか。奪われた命が戻ってこないことに変わりがないとしても、なぜどういう理由で亡くなったのか、理由を知りたい、という欲求は、人災でも天災でも同じ思いである。
世界各地の戦争やジェノサイドなどに対して、過去の犯罪の解明を求め、弾圧や内戦で犠牲となった人たちの記憶を掘り起し残し、その尊厳を取り戻す試みが、さまざまになされている。ポルポト政権下カンボジアでの虐殺や、1994年のルワンダ虐殺、1996年まで続いたグアテマラ内戦などを巡る真相解明の試みが、それだ。
こうした営みは、ただ恨みを晴らすだけではない。犠牲者と事件の責任者が和解し再出発を目指すために、必要不可欠な行為である。イラクでフセイン政権に処刑された人々の遺族が、遺体を探して国内中を旅する祖母と孫を描いた「バビロンの陽光」というイラク映画(2011年日本公開)は、その遺族たちの、前に進めない思いを描くとともに、「和解」が口だけの簡単なものではありえないことを、よく表している。大川小学校の周辺では、いまだに家族が行方不明の人たちが、現場の地面をくまなく探る光景に出会った。
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