イラクの細分化が始まるのか - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年2月6日 12時42分
最近、イラク研究者が注目している、マニアックともいえる出来事がある。1月後半にイラク政府が、イラクの18の県のいくつかを分割して、県を22に増やす、という閣議決定をしたのだ。
県が増える程度の地方行政政策の変化になぜ、各国のイラク・ウォッチャーが耳目をそばたたせているのか。それは、現在の宗派対立の激化に対する政府の手詰まりを反映したこの安直な政治手法が、イラクという国の領域の一体性自体を崩すことになりかねないか、と懸念しているからだ。
県を増やす対象地域は、ニネベ県のキリスト教徒居住地域、サラハッディーン県のトルコマン民族居住地域、アンバール県のファッルージャ周辺、そしてクルド自治政府管轄地域のうちハラブチャ地域だという。前者の二県は、少数宗派、少数民族の保護、最後のひとつは、フセイン政権時代に化学兵器攻撃を受けた地域を特別にケアする、という意味がこめてられているので、まあ筋が通らないわけではない。
だが、三つめのファッルージャは、最近の、ファッルージャを中心とするアンバール県の反政府活動の激化に対応したものだということは、明らかだろう。2012年12月、アンバール県出身の元副首相で当時財務相だったスンナ派の有力政治家、ラーフィウ・イーサウィーの警護官が、反政府テロに関与した、との疑いをかけられ、これをきっかけにイーサウィーは一転、政府から追われる身となった。イーサウィーの地元、アンバール県の住民は、当然政府に反発を強める。
2006-08年の内戦期、アンバール県はアルカーイダ系など外国の反米・反シーア派戦闘員が居ついて、宗派対立の最大の戦場となった県だ。それを、地元の部族が中心となって、地元住民の政府支持を回復し、2008年になんとか外国人戦闘員を追い出すことに成功した。なのに、イーサウィー事件で、再び地元住民が政府への反発を強めたのである。内戦期に政府側に立って、アルカーイダ系を抑えるのに功のあった「サフワ」という組織も、2012年末から反政府側にまわった。
それに加えて事態をややこしくしたのが、シリアでのスンナ派反政府勢力との連携である。アンバールに居ついて内戦を煽ったのは、「メソポタミアのアルカーイダ」という組織だが、これがシリア内戦の過程で、「シリアとメソポタミアのアルカーイダ」となって、シリアとイラクで連動して活動をさらに拡大しているのだ。アルカーイダ系戦士たちは、イラクのアンバール県地元社会から追い出されたところに、シリアでの内戦が始まった。すわ、シリアに駆けつけて、シリアを主戦場とする。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が迎える「転換点」の攻防
ロイター / 2024年5月11日 8時4分
-
イスラエルのガザ攻撃を止めるにはどうすべきか…中東で100年以上も泥沼の戦争が繰り返される理由
プレジデントオンライン / 2024年5月4日 10時15分
-
バッタを食べて戦う兵士たちは、なぜか明るく楽しげに歌う 戦略なし、将来像なし。民族間に横たわる不信感。「それでも今は戦うのみ」【ミャンマー報告】2回続きの(2)
47NEWS / 2024年4月29日 11時30分
-
当事者すべてを「ハッピー」にしたイランの報復攻撃 イランがイスラエルからの報復を恐れずに攻撃できる理由
東洋経済オンライン / 2024年4月20日 17時0分
-
「16歳でイスラム国(IS)の奴隷にされた」26歳女性が明かす6年半の絶望 「悪魔」の子どもも2人産まされ…クルド系少数派の悲劇
47NEWS / 2024年4月20日 10時30分
ランキング
-
1「社会へ強いメッセージを伝える人に与えられる」“建築界のノーベル賞”プリツカー賞授賞式に山本理顕さん出席 日本人9人目の快挙
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月19日 11時13分
-
2イスラエル 政権内の亀裂深まる、戦時内閣メンバー・ガンツ前国防相 ネタニヤフ政権に戦闘終結後のガザ統治など行動計画要求「策定しなければ離脱」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月19日 12時27分
-
3ロシア、ハリコフ州でさらに1集落制圧=ウクライナ北東部、1万人避難
時事通信 / 2024年5月19日 8時26分
-
4イスラエル軍、ガザ北部ジャバリヤ侵攻「これまでで最も激しい戦闘」…戦闘員200人殺害と主張
読売新聞 / 2024年5月18日 22時7分
-
5敵前上陸「地上の地獄だった」 対ロシア渡河作戦、兵士ら証言
共同通信 / 2024年5月19日 20時8分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください