ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ
ニューズウィーク日本版 / 2014年2月17日 12時20分
「これまでは訴追される恐れがあったため、秘密裏にやらざるを得なかった」とベルンヘイムは言う。「今後は合法的にできるようになるだろう」
もちろん、本人が望むだけでは安楽死は実現しない。法案では、子供自身に十分な判断能力があるかどうかを、心理学者と医師が判断することが要件となっている。また医師は子供に対し、苦痛を緩和するための医療行為にどんな選択肢があるかを伝えるとともに、本人の希望について対話を続けることが義務付けられている。
それでも「安楽死」という言葉を用いて話をすることは、重病の子供たちに死を選ぶよう圧力をかけることにつながりかねない。
「緩和ケアが功を奏しているのに、子供たちの命を堂々と奪うことなどあってはならないと思う」と、欧州生命倫理研究所(ブリュッセル)のカリーヌ・ブロシエは言う。「ベルギーは世界の安楽死の実習室になろうとしている。安楽死はワッフルと同じ、ベルギーの代名詞になるだろう」
ブロシエによれば、子供の安楽死容認は倫理的に危うい領域への第一歩になりかねない。「次に来るのは認知症の人々の安楽死だろうか。その次は障害のある人々の安楽死か」
ブロシエは言う。「今でさえ認知症の患者に対しては、蘇生措置や抗生物質の投与など、苦しみを長引かせるだけで無意味と思われる医療行為を控えることがほとんどだ。ほかの人であれば与えられるはずの救命措置に、彼らは値しないと考えられている」
誰が生きるに値するかを判断しようなど、神の領域に対する侵犯と言ってもいい。だがナチス・ドイツでは、医師たちの手で1万人以上の障害や重い病のある子供たちの命が絶たれた。
どちらを選択しても苦しむ親
当時、命を奪われたドイツの子供たちは死にたいかどうかなど尋ねてもらえなかった。だがベルギーで今回の法律が成立したら、医師は「安楽死してはどうか」と子供たちに提案できるようになる。
「もちろん難しい対話になる」とファンデルウェルフテンボスは言う。「親たちがよく言うのは、『私たちに何ができるだろう』ということだ。これから私たち医師はさまざまな医療行為だけでなく、『死を選ぶという選択肢もあります』と言えるようになる」
新法をめぐる議論はベルギー社会やそのモラル、義務についての考え方を映す鏡になるだろう。「子供の安楽死は、ベルギーに暮らす私たちの生活にとってどんな意味を持つのか」とブロシエは問う。「末期患者である子供たちの苦痛を和らげるには、緩和ケアに対する財政支援の拡充といった、さらなる連帯こそが必要なのに」
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