アーミテージ氏と櫻井よしこ氏に異議あり! - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月4日 11時33分
櫻井氏は朝日の報道姿勢への批判に終始しているのですが、その本論としては従軍慰安婦問題を取り上げています。
「大阪朝日」が「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』」を報じた際に、その女性、金学順氏が「14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られた」という訴状を根拠に「彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じず、慰安婦とは無関係の『女子挺身隊』と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取り上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである」としているのです。
櫻井氏は更に「この延長線上に93年の河野談話がある。談話は元慰安婦16人に聞き取りを行った上で出されたが、その1人が金学順氏だ。なぜ、継父に売られた彼女が日本政府や軍による慰安婦の強制連行の証人なのか」と、疑問を呈しています。
現在、安倍政権が「調査チーム」なるものを作っていますが、河野談話の「見直し」を匂わせたような行動をしているわけです。この櫻井氏のロジック自体が、その危険性を完全に見落としているいい例です。
危険性というのは簡単な問題です。「借金や親の承諾のない女性を強制連行」したのは誤りで、「管理売春制度の下で継父に売られた女性」を「置屋の財産権を保障」するために、あるいは「戦場での統制」を確保するために「逃亡を官憲が阻止した」というのが事実だとします。その「前者」は誤りで「後者」が正当だという証明を行うことが、「現在の日本国の名誉回復」にはならないということです。
このブログで何度もお話しているのですが、安倍政権も櫻井氏もこの非常に基本的な点に気付いていない、これは大変に問題だと思います。こうした誤解を抱えたままで、それこそ「狭義の強制はなかった」などという言い方で「河野談話」を変更するようなことがあっては、前回の靖国参拝や、ダボス発言とは比べ物にならないインパクトで、日本の国益は毀損される危険性があるのです。とにかく、冷静になって考えていただきたいと思います。
実は、私は櫻井氏と公開形式の討論という形でご一緒したことがあります。詳しくはその際のエントリをご覧頂きたいのですが、私は「現在の日本の国体は浄化されているのだから、今の世代の日本人が例えば中国人から歴史の問題で挑発を受けても現在形でのケンカを買って相手の術中にはまるのではなく、ケンカは買うべきではない」あるいは「その姿勢が、昭和天皇や、戦犯遺族の残した『沈黙の継承』ということであり、戦後の日本人の誠実な歩みによって成された『国体の浄化』を守ってゆくということだ」という論理で、歴史認識の修正に疑問を呈したのです。
その際に櫻井氏からは「同意はしませんが、お気持ちは分かります」と理解していただいたこと、そして何よりも礼儀正しく知的な佇まいには今でも好感を持っています。日本の世代間格差についてどう考えるかをお尋ねしたところ、「高齢の世代が寛容さを見せて譲歩をする必要があります」と仰っていたのも、凛として印象的でした。
冒頭のアーミテージ氏の発言に関しては、「あなたに言われる筋合いはない」というのが正直な感想ですが、あのアーミテージ氏にしてこのような発言が出るというのは、事態が深刻化している証左と思います。安倍政権は、とりあえずウクライナ問題でG7との歩調を合わせましたが、それに安心することなく日米のコミュニケーション正常化に努めてもらいたいものです。櫻井氏も、何かに取り憑かれたようにイデオロギーに執着するのではなく、冷静に凛として論理を修正していだけないものでしょうか。
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