アメリカなき世界に迫る混沌の時代【後編】
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月23日 12時40分
(4月22日掲載の「アメリカなき世界に迫る混沌の時代【前編】」から続く)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領に、ロシア陣営にとどまるよう激しい圧力をかけている。そのためヤヌコビッチは、EU(欧州連合)との連携を強める「連合協定」の調印を見送った。しかし国民の多くは協定を支持。04年のオレンジ革命を思わせる大規模な抗議行動を起こした。
アメリカなき世界で最も危険な事態に陥るのはアジアだろう。中国、日本、韓国、台湾が数十年にわたり競い合う地域で、くすぶる領有権問題が戦火を起こしかねない。火種の1つは南シナ海における中国の好戦的な姿勢。もっと深刻なのは、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張する中国と日本の対立だ。13年11月、中国が東シナ海上空に日本のものと重なる防空識別圏(ADIZ)を新たに設定し、紛争の不安が高まった。
アメリカの安全保障の傘のおかげで何十年もの間、アジア主要国間の不和は休眠状態にあった。アメリカがいなければ、アジアはとうの昔に破滅的な軍拡競争に突入していただろう。実際、今回の中国の挑発行為には国内問題で手いっぱいのアメリカを試す意図がありそうだ。
オバマのうたうアジア重視戦略は今のところ中途半端な状況にある。しかし領有権をめぐる緊張を背景に、2014年にはその立て直しを図るだろう。14年4月にオバマがアジアを歴訪する際は、同盟国である日本と韓国の懸案事項を優先議題にすることが期待される。
冷戦時代は単純だった
アジア以外でも14年は騒然とした年になりそうだ。各地で選挙が行われ、世界人口の約40%が投票をする。ブラジルやチリ、ギリシャ、マレーシア、タイ、トルコを揺るがしたような中間層による抗議デモが世界各地で起き、政府を試練にさらすだろう。北アフリカと中東の広い範囲ではアラブの春の余震が続く。エジプトやリビア、チュニジアの暫定政府は権力の確立に苦労し、シリアの恐ろしい人道危機は収まりそうもない。
一方、アメリカ国内は平穏だ。オバマは退任間近の時期に入り、支持率も民主党をまとめる力も低下している。民主党は14年の上下両院選挙で、負けをどこまで抑えられるかが試されるはずだ。第二次大戦以降、大統領在任6年目の中間選挙で政権与党は平均して下院で29座席、上院で約6議席を失っている。
アメリカが外国で新たな冒険を始めることもないだろう。オバマにとって14年の最優先事項は世界に対するアメリカの関与の縮小だ。具体的にはアフガニスタンから米軍を撤退させ、解決不能な問題を抱える中東から距離を置くことだ。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
トランプ政権発足、対峙する石破首相に今必要な事 フラット化の時代から「逆戻り」する世界
東洋経済オンライン / 2025年1月21日 10時0分
-
カーター大統領への追悼 その光と影
Japan In-depth / 2025年1月8日 13時27分
-
米調査会社、2025年10大リスク発表、日本のリスクは関税と米・メキシコ関係悪化(米国、日本、メキシコ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年1月8日 11時30分
-
カーター元米大統領の外交政策――低評価の2つの理由とその背景を検証
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月7日 16時34分
-
トランプ新政権の日本への意味とは その2「不法移民」という用語の誤り
Japan In-depth / 2025年1月6日 11時0分
ランキング
-
1中国紙、処理水「異常なし」…海水サンプル分析結果を報道
読売新聞 / 2025年1月22日 23時11分
-
2日本郵船の運搬船、乗組員解放=フーシ派、ガザ停戦で―イエメン
時事通信 / 2025年1月22日 23時58分
-
3「慰安婦本」著者が勝訴=賠償請求退ける―韓国高裁
時事通信 / 2025年1月22日 18時43分
-
4トランプ政権、石破茂首相への関心低く「ディール」対象外か 安倍氏の名は折に触れ言及
産経ニュース / 2025年1月22日 17時35分
-
5ゼレンスキー氏「ロシア、大統領交代を要求」 3年前の停戦交渉 傀儡化の意図を暴露
産経ニュース / 2025年1月22日 22時41分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください