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後ろめたさがなくなった? 日本の対イスラエル接近 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2014年4月30日 21時26分

 4月28日の朝日新聞(朝刊)のコラム「いざイスラエルへ 連携狙いベンチャー参戦」を読んで、妙な違和感を感じた。イスラエルにベンチャー進出しようという日本人ビジネスマンたちを対象に行われたイベントについての記事で、同じような報道は日経新聞などでも行われている。

 イスラエルは技術大国で、ハイテク産業分野で世界の注目を浴び続けていることは事実だ。朝日の記事が指摘するように、「海外の多くのハイテク企業が拠点を置いているのに、「目立たないのは日本だけ」」というのも、その通りかもしれない。
 
 だが、この記事に違和感を感じた最大の点は、あまりにもあっけらかんと、イスラエルへの進出を日本の豊かな未来への第一歩のように書いていることだ。

 いわずものことだが、イスラエルはパレスチナの土地を占領し続けている。そのことで、過去4回の戦争と繰り返しの周辺国(レバノンなど)への軍事侵攻と、占領地のパレスチナ人に対する迫害を数限りなく繰り返している。そのイスラエルの国家としての姿勢そのものを巡って、国連決議を始めとした国際的な批判が多々存在するが、一向に聞き届けられない。そのようななかでイスラエルと関係を強化することは、「経済的に利益はあっても倫理的にいかがなものか」という自制の思いが、さまざまに働いてきたはずだ。

 中東研究者でなくとも、国際的に活躍する著名人の間には、そうした思いは広く共有されてきただろう。2009年、エルサレム賞を受賞してイスラエルを訪問した村上春樹氏は、「文学賞を受け取る事が適切なのかと、紛争当事者の一方につく印象を与えるのではないかと、圧倒的な軍事力を解き放つ事を選んだ国の政策を是認する事になるのではと」何回も自問した、と述べている。そして、あの有名な「高く堅固な壁と卵があって、卵は壁にぶつかり割れる。そんな時に私は常に卵の側に立つ」という、イスラエル国家批判のスピーチを行ったのだ。

 そのような逡巡は、ベンチャー進出を高らかに謳い上げる上記の記事には、一切見られない。その見られなさに、筆者はショックを受けた。

 村上春樹氏が悩み自問した時代から比べて、中東和平情勢が改善されたのだろうか。イスラエルは、訪問するに何も後ろめたさを感じなくていい国になったのだろうか。1100~1400人強のパレスチナ人死者を出して国際的に顰蹙を買った、2008-9年のガザ空爆のような大規模な攻撃は、確かにあまりない。だが2012年11月にはイスラエル軍が、ハマースの軍事指導者アフマド・ジャバリ殺害を目的とした「国防の柱」作戦を展開し、100人強のパレスチナ人民間人を殺害している。国連が禁止し米国政府も「やめろ」と言っている占領地へのユダヤ人入植は、全く止む気配がない。

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