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『ドラえもん』のアメリカ進出に30年かかった理由とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2014年5月22日 11時15分

 では、今回どうしてその『ドラえもん』は許容されるようになったのでしょうか?

 まず価値観の多様化、あるいは価値相対主義というものが、アメリカのカルチャーを大きく変えたということがあります。要因としては、9・11からイラク戦争へという時代の中で、アメリカ人自身が善悪二元論の限界にようやく気づいたこと、更に善悪二元論では飽き足らない団塊二世が社会の中核を担い始めたということ、グローバリズムや移民によってヨーロッパやアジアのカルチャーの影響が濃くなったことなどが挙げられるでしょう。

 教育の問題でも、従来はアメリカの小中学生に対しては「原則は放任して、顕著な才能があれば引き上げる」という「のんびり」した姿勢であったのが変化してきています。大学受験が過熱する中で、学校の宿題の量は増えるし、親からのプレッシャーも高くなる、つまりアジア的になってきたということが言えます。



 これに加えて、「いじめ問題」がアジアなどに遅れてアメリカの子供たちの間でも深刻になってきました。従来は「高校で体育会のエリートが威張る」という種類の比較的に限定的であった「いじめ」が、SNS利用の低年齢化などもあって、中学生から小学生にも広がっているのです。

 そうした中で、いつの間にかアメリカの子供社会において『ドラえもん』の世界観は、何の違和感もないことになりました。また団塊二世より更に若い層を含む、今のアメリカの親たちも、往年の「善悪二元論」によるクラシックな子供向けコンテンツでは飽きたらず、様々な「価値相対主義」や「多元的な価値観」を持った表現を子供に与えたがるようになっています。

 この『ドラえもん』をディズニーが取り上げたというのも象徴的です。90年代までのディズニーは「善悪」とか「美醜」といった価値観に関しては、非常に単純なものにこそ「夢」があるのだというメッセージに固執してきたわけです。ですが、2001年にライバルのドリームワークスが『シュレック』で二元論ではない、少なくとも善悪と美醜の話をマトリックス化する中で「子供向きアニメ」の世界観を変えてしまうという事件が起きました。

 以降のディズニーは、徐々にそうした変化への対応を始めていったのです。一つには、自社のブランドイメージに直結する「お姫様」の造型をブラッシュアップしていったということがあります。例えば、2007年の『魔法にかけられて』では善悪二元論の世界と現実世界のクラッシュを描き、今回の『アナと雪の女王』では複雑な人間関係の中で「自分が自分であること」を生き抜く女性像というように「新しさ」を追い求めています。

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