日本はどれほど「アジア」を知っているのか? - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2014年6月2日 15時59分
南海沖で起きた、ベトナムと中国の衝突が日本で高い関心を引いている。メディアの報道ぶりも日本と直接関係のない事例としては珍しいほど力が入っている。日頃のアジアニュースへの冷たさと比べると、その報道の視点は「南海における緊張の高まり」に関心を払っているというよりも「中国の横暴ぶり」に焦点を置いたものが多い。そうでないというのなら、もっと日頃からフィリピンと中国、あるいはその他の国々との往来にも関心が持たれても良いはずだ。が、ここまで毎日のように熱心に報道枠をアジアニュースに割いてきたメディアはこれまであまりなかった。これは今後アジアニュースへの比重がもっと高まる前触れとみて良いのだろうか?
だが、本当に「中国の横暴ぶり」をメディアが伝えているか、といえば、そうでもない。横暴ぶりならば、今新疆ウイグル自治区で起こっているウイグル系住民への激しい取り締まりや弾圧、そして天安門事件25周年を前に激しさを増す言論や社会正義を唱える人たちへの有形無形の圧力について、中国国内からもっともっと報道すべき話題があるからだ。
結局のところ、ベトナムと中国の衝突がこれほどまでに関心を呼んでいるのは、流れてきた映像が2010年の尖閣沖で起きた、中国漁船と海上保安庁の監視船との衝突の記憶と重なるからに他ならない。日本人の多くはあの時感じた憤りを、今回そのままベトナム人にかぶせて「味方」しているつもりになっているに過ぎない。そのほとんどがベトナムという国がどんな国かを知ることもなしに、だ。
非常に面白いことに、中国の民間論壇でもやはり、今回の騒ぎをあの尖閣沖事件と重ねて論じている。さらには続いてベトナムで起こった中国企業(だが台湾企業もとばっちりを受けた)焼き討ち事件を、2012年に日本による尖閣国有化を受けて引き起こされた反日デモに重ねている。
ただ、前者は中国の一般市民が覚えているのは、自国の船長が日本に拘束され、家族揃って祝う「中秋節」(中秋の名月)にも返してもらえなかったという「理不尽さ」だ。中国と文化的に近い日本がその日の重要さを考慮して情状酌量しなかったこと自体、意図的な悪意だと勘違いしている人も少なからずいる。ベトナムの反中デモに反日デモを思い起こす人たちのほとんどは、当時組織的に構成されたデモを指摘し、暴力的な騒動に発展したことを憂いた人たちだ。
実のところ、中国当局は今回のベトナムで起きたデモについて報道禁止令を敷いている。わずかに共産党が直接編集権を握る機関紙やその傘下の新聞だけが報道、論評を許されている。事件自体が広く報道されないのに論評だけ流れる、というのもおかしな話だが、事実を知らせないままに当局がその出来事を定型づけ、それ自体が事件の顛末なのだと人々に信じ込ませるための誘導なのだ。国家利益に関わる時に度々行われる、「イデオロギーが事実を上回る」ための常套手法だ。
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