「理」なき殺し合いの怖さ - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年7月29日 10時26分
合理的に考えれば、ガザにいるパレスチナ人150万人を殲滅することはできない。イスラーム国がイラクの、あまり「原理主義」的ではないスンナ派すべて(少なく見積もっても650万人)に恭順を強要することはできない。イラクのシーア派民兵が宗派意識に凝り固まって首都のスンナ派住民約150万人を追い出すか、殺害することはできない。合理的な考えを持つ統治者であれば、それができないのであれば敵に回した相手に憎しみが残らないようにどこかで手立てを取ることを考える。今の戦闘が恐ろしいのは、その理がみえないことだ。
理のない世界に抵抗しようという人たちは、いる。モースルでは、「アリババと40人の盗賊」さながらにNマークを付けられたキリスト教徒の家に、「私たちは皆、イラク人であり、キリスト教徒でありイスラーム教徒であり、サービア教徒(少数宗派)である」と上書きしてまわることが流行った。ガザを攻撃したイスラエル兵士がアラビア語で、「本当は侵攻なんかしたくないんだけど、ハマースがミサイル攻撃するから仕方ないんだ」と書き記した落書きは、殺戮に抵抗と躊躇を感じながらもイスラエル政府が提示する「理」で自分を納得させようとする、イスラエル兵士のジレンマの表れかもしれない。
それでも、民衆が「理」なき行動を迫る。アラブに死を、と叫ぶイスラエル市民がおり、シーア派に死を、と叫ぶスンナ派ムスリムがいる。「○○に死を」とか「○○は出ていけ」と簡単に口にするヘイト・スピーチが、その先何をもたらすか。今中東で起きていることは、日本社会にも無縁ではない怖さを感じさせてくれる。
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