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2020東京五輪の「テーマ」はどうして知られていないのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2014年8月5日 11時11分

 ロンドン五輪においては、市内の格差是正、具体的には貧困地域の経済底上げ策や、大会をターゲットとしたイギリス全国における若者のスポーツ振興、そして開催国としてのメダル獲得という政策を全体として整合性のあるような形で、練り上げて実施したというのです。ヘンリー教授は、そうした国内向けの施策という点では、2020年の東京五輪に関しては「遅れ」を感じるという警告をしていました。



 ヘンリー教授は、勿論この「スポーツ・フォー・トゥモロー」の政策に関しては高く評価しているのですが、では、どうしてこうした本格的な政策が、日本国内にもたらす効果は限定的と考えられるのでしょうか?

 例えば、スポーツマネジメント大学院の設置は素晴らしいことです。ですが、現在のところ、例えばアメリカやヨーロッパの大学や大学院でスポーツマネジメントを専攻して学位を取得してきた人材に対して、日本の国内のプロもしくはアマの指導者となるキャリアパスは極めて細いのです。

 アマの世界では、スポーツ指導のプロよりも教員が指導者を担う現状があり、プロの世界ではオーナー企業や過去の名選手が権力を持つヒエラルキーがある中で、大学院で国際的な専門ノウハウを学んだ人材は活かせていないのです。今回のTIAS設置という「画期的な話」が、そうした問題の打開につながることには大いに期待したいのですが、日本国内のプロとアマにおける、マネジメントの底上げという具体的な成果に結びつくには、相当に時間がかかると思われます。

 アンチ・ドーピングの普及というのも重要な課題ですが、一方で日本では熱中症スレスレの環境で中高生に練習や試合を強いるなど、健康のためのスポーツがかえって健康を損なうような非科学性が国内には残っています。予算をかけて、日本の若者が世界でアンチ・ドーピングのノウハウを教えて回ることが、こうした国内のスポーツ医学知識の底上げになるかというと、そこにもあまり関係性は見出せません。

 途上国に体育館をというのも美しい話ですが、では国内の事情はどうかというと戦後ずっと向上してきた子供の運動能力は、1985年ごろから低下を始めているのです。つまり子供の体育教育という問題について、日本国内では「成熟国家タイプの問題」に直面しているわけで、その一方で相当な予算を使って「途上国タイプのアプローチ」を世界に普及していくというのも、少々バランスに欠けるように思います。

「スポーツ・フォー・トゥモロー」という政策そのものは、大変に素晴らしいことであるのは間違いないのですから、もっともっと日本国内でもPRをして欲しいと思います。その延長上で、この活動が日本国内のスポーツ振興にも回り回ってプラスになるように、今一歩の踏み込みをした政策立案をしていただきたいと思います。

 2020年の招致ができた、しかも国際社会から評価されている、というだけでは、あまりにも「もったいない」政策です。

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