石油ショックは再来するか - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年8月6日 18時0分
「石油ショック」といっても、もう歴史上の出来事としてしか知らない人が多いかもしれない。これは1973年10月に起こった第4次中東戦争にともなって、石油輸出国機構 (OPEC)が原油価格を1バレル3ドルから5.1ドルに引き上げたことが発端で、その後、1974年には11.5ドルになった。
これが世界経済に大きな衝撃を与え、1973年から75年にかけて日本の消費者物価指数は45%も上昇する「狂乱物価」になった。いま思えばこれは奇妙な話で、石油の物価指数に占める比重はたかだか数%だから、それが4倍になっても物価が1.5倍になるはずがない。
狂乱物価の原因は、過剰流動性だった。日銀は1971年からマネタリーベースを40%以上増やして物価を10%近く上昇させており、これは「ニクソン・ショック」後の円高を抑えるための「調整インフレ」だった。こうした金余りの中で「トイレットペーパーがなくなる」とか「商社が買い占めしている」といった噂がパニックを呼び、異常なインフレが起こったのだ。
つまり狂乱物価の主犯はOPECではなく、日銀だったのだ。今回の過剰流動性は1973年をはるかに上回るが、今のところはインフレ率は2%以内だ。しかし危険なのは、40年前と同じ供給ショックが来ることだ。民間調査機関の推定では、4~6月期の実質GDP成長率は年率7~8%の減少と、リーマン・ショック以来の大きな落ち込みである。
これは単なる消費増税の駆け込み需要の反動ではない(1997年の増税のときは4~6月の成長率は年率+1.5%だった)。エネルギー価格の上昇(ここ5年で原油価格は2.5倍)がきいてきたのだ。今年に入ってから鉱工業生産指数は半年で7%以上落ち込み、貿易赤字は半期で7.6兆円と史上最大になった。
この最大の原因は、原発停止にともなうLNG(液化天然ガス)の輸入増である。図の輸入額(左軸)は2010年の3.5兆円から今年は7.1兆円に増え、今年は前半のペースだと7.8兆円に増えると予想される。これは半期の貿易赤字にほぼ匹敵し、2010年との差額4.3兆円が原発停止にともなう損失である。
これに対して「輸入量は25%しか増えていない」という話があるが、では輸入額はなぜ120%も増えたのだろうか。このうちドル高の効果は25%なので、残りの95%がLNG価格の上昇だ。ところが原油価格は、2011年から15%しか上がっていない。LNG価格が大幅に上がった原因は、原発を止められた電力会社がスポットで買いに行ったためだ。足元を見られて、日本だけ高く買わされたためだ。
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