イラク:新首相の評価は - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年8月27日 11時39分
夏は国際学会のシーズンである。海外で開催される中東関係のさまざまな会議やインタビューを梯子していると、やはり今年の大きなテーマは、イラクに勢力を広げたイスラーム国についてと、蔓延する宗派対立に関するものが多い。そうした会議では国内外からやってきたイラク人研究者に会う機会が多くあるが、最近交替したばかりの新首相をどう見るか、に話題が集中した。
新首相に任命されたハイダル・アバーディについては、これまでのマーリキー首相に辟易していたせいか、おおむね期待する向きが強い。マーリキーの何がそんなにダメだったのか?と聞くと、とにかく腐敗がひどい、と皆が口にする。身内びいき、側近びいきという、典型的なネポティズムを嫌う声が強かった。だが、なぜ特にマーリキーがネポティズムに依存することになってしまったのだろう?
面白いのは、複数のイラク人(国内に住む人も、欧米在住の人も)から「マーリキーは田舎出身だから」と語ったことだ。言い換えれば、都会出身の「知識人」ではない、ということ。なるほど、その説明は、アバーディがそこそこ評価を受けているのと合致する。
アバーディは首都バグダードの、しかもカラーダという伝統的に商業で栄えてきた地区(東京でいえば銀座あたりか)の出身。一方でマーリキーは、シーア派の聖地があるカルバラー県の出身だとはいえ、地方部出身である。同じカルバラー出身でもアディープ高等教育相は、聖地であり県庁所在地であるカルバラー市の出身なので、党内No.2なのにマーリキーに対して優越感があるらしい。マーリキーの前に首相を務めたイブラヒーム・ジャアファリも、いつも知識人を気取っていて、党内幹部会議などでマーリキーを小馬鹿にしたような態度をとっていた、とは、ダアワ党が野党だった時代の野党仲間の証言だ。
イラク社会を見る上でイラク人がよく指摘するのが、この「都市部出身か地方出身か」との視点だ。前者をハダーラ(文明)と呼び、後者はバドゥ、つまり遊牧部族社会が色濃く残る社会、とみなす。知識人の多くは、都市出身、つまり「文明人」の政治家を望む。
しかし、現実の政治はどうかといえば、非都市部の、伝統的には蔑まされてきたような出自の者たちが権力を牛耳ってきた。イラク戦争前、長く独裁を誇ってきたサッダーム・フセインがまさにその人である。ティクリートの、さらに田舎のオウジャという村で、周りが学校に行かせてもらえるのを横目で見ながら、育った。
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