シリア空爆の意味 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年9月24日 12時31分
であれば、地元社会の希望はただひとつ。「自分たちをまきこまないでほしい」。「イスラーム国」も、イスラーム国に資金をつぎ込んでいると言われる湾岸のアラブ産油国も、「イスラーム国」をやっつけにきた米軍も、自分たちとは本来無縁なものだと、シリアやイラクに住む人たちは考える。そもそも暴力的な武装集団がこの地域で闊歩するようになったのは、米軍がイラク戦争を行ってからのことだ。米軍のイラク介入が引き起こした「テロ」なんだから、米国こそが責任をとって回収すべきではないのか――。
中東を専門とした国際政治学者の故フレッド・ハリディは、9.11事件の直後のエッセイでこう書いている。「アラブの人々は米国が介入することに文句を言っているのではない。介入しなさすぎることに不満を抱いているのだ」。
では、余所者たちはどうしたら「イスラーム国」を「責任をとって回収」できるのか。そのためには、余所者が事態を複雑化したのだという認識をまず、共有する必要がある。米軍のシリア空爆にサウディアラビアやカタールなどが参加したことは、その点で意味を持つ。シリア内戦に周辺国が好き勝手に介入した結果、「イスラーム国」というフランケンシュタインを作り上げた。その作った張本人たちであるアラブ湾岸諸国が、そのフランケンシュタイン出現の責任を自覚し、回収に積極的な役割を果たす必要がある。チェチェンや北アフリカから戦闘員が「イスラーム国」に流入していることを考えれば、ロシアや北アフリカ諸国、そしてそれらの背景にある西欧諸国もまた、「イスラーム国」というフランケンシュタインの創り主である。
しかし、フランケンシュタインはすでに自活能力を獲得している。シリアやイラクの石油施設を接収して、石油の闇輸出で収入を得、あちこちで拉致誘拐した者から身代金を巻き上げる。イラクでの戦闘を経て、武器や財産を戦利品として得たことで、「イスラーム国」は、外部からの資金を断たれたとしても、かなりの程度自活できる。
本来力をいれて行うべきは、そうしたフランケンシュタインの創り主たちの間での本格的な共闘体制のはずだ。それを欠いて空爆だけしていればよい、というのでは、結局は地元社会の「責任をとらない余所者たち」への不信感を高めるだけである。
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