「シリア領内空爆」は本格的な戦争の始まりなのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年9月24日 13時29分
二つ目は、この「シリア領内への空爆」ですが、事前にシリアに通告されていたというのです。事実上、アサド政権の了承の下に行われているというわけで、ということは、とりあえず「サリン問題」以来、西側の、そしてアメリカの敵であったはずのアサド政権は、今回の空爆に関しては了承しているということになります。
そうなると、反アサド派の中の「穏健派」の位置づけも変わってくると思いますが、そのあたりはハッキリしていません。一方で、アサド政権のスポンサーの一つであるロシアは、さすがにウクライナ情勢で西側とは敵対していますから、今回のアメリカの空爆を非難しています。
三つ目は、今回の空爆の大義名分としては、アメリカ単独ではなく「アメリカ+5カ国連合」によるものだということになっている点が新しい要素です。その5カ国とは、サウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)です。この顔ぶれですが、どれもスンニ派の君主国ですから、ISISの「カリフ制」などという自称を絶対に許せないという共通点があります。また、とりあえずトルコは利害が濃すぎるし、イランは過去の経緯からまだ関係改善にはお互いに踏み切れないという事情もある中での枠組みだと言えます。
こうした三つの「新しい要素」が加わった中での空爆であるわけですが、では、アメリカとして「本格的な戦争」に突っ込んでいくのでしょうか?
私はその可能性は薄いと思います。それは、国内の厭戦気分であるとか、軍事費が限られているということももちろんあります。今回の作戦については、一週間で1億ドル(約108億円)、仮に1年以上継続したとして年間200億ドル(約21兆円)程度の規模であり、大規模な戦争予算を組むわけではありません。
ですが、それ以上に言えるのは、今回の作戦には「一貫したストーリーがない」ということです。以下、4点指摘しておきましょう。
(1)まず、ISISを叩くことが目的だと思ったら、コーラサンが危険なので主要な目標に加えたというのです。つまり、諜報活動の結果としてISISだけでは「アメリカへの脅威」が薄かったという推察ができますし、別の言い方をすればアメリカが全力を挙げて「対ISIS戦争」を戦うストーリーは既に曖昧になったと言えます。
(2)アサド政権に事前通告しており、事実上アサドの承認の上で行われた攻撃ということになると、「アサドは化学兵器を使用した人類の敵」だから「政権転覆」すべきだというストーリーも崩れています。ということは、今回の空爆は事実上「アサドへの援護射撃」になるからです。同時に「アラブの春」による独裁政権の打倒運動は「正義」だというオバマ政権が一貫させていた態度も曖昧になりました。
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