「不人気オバマ」を日本の民主党政権と比較する - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年10月30日 13時53分
ですが、任期中のオバマの「銃規制」に関する成果は、ほとんどゼロです。オバマ政権になってからも、アリゾナ州でのガブリエル・ギフォーズ下院議員への銃撃事件(巻き込まれた犠牲者があり、本人も脳に負傷)、そしてコネティカット州での小学校での乱射事件、あるいはコロラド州の映画館での無差別乱射事件と、銃を使った深刻な事件が頻発しています。
それでもオバマは踏み込んだ銃規制の議論をしていません。その理由は、黒人大統領の自分が銃規制の問題に積極的に介入すると、銃保有派の白人の保守層を激怒させ、銃規制が人種問題に絡められてしまうことをおそれているのだと思います。
人種対立の問題に関して言えば、ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警官による黒人青年射殺事件を契機として現在進行形で進んでいる人種対立の問題も、オバマは効果的な「介入」はできていません。黒人である自分が介入すると、問題解決に向けた大統領の権威が機能しなくなると考えたのでしょう。
また、オバマはノーベル平和賞を受賞しておきながら「アフガニスタンでの増派作戦」を実行し、さらには「パキスタンの主権を侵犯した上でのウサマ・ビンラディンの暗殺」という作戦まで遂行しました。これも本来は、平和的な解決をしたいし、特にビンラディンに関しては合衆国憲法に基づく公開法廷で裁きたかったのだと思いますが、そんな「美しい理想論」を掲げていると国家が分裂するとおそれた結果、自分の手を血で汚して済ますことにしたのでしょう。
結果として、オバマ政権は「ある種の疲労感」をにじませています。別の言い方をすれば、国民との誠実な対話を行うことへの疲労感です。
現在のISIL(自称「イスラム国」)の問題では、理想と現実の葛藤という話では済まない、極めて複雑な国際政治的な駆け引きが進行しています。ISILは直接的にはアサド政権と戦っていますが、アサドを応援しているのはプーチンであり、自国民に対してサリン攻撃をした「罪」はまだ背負っている政権ですから「善玉」とは言えません。
またクルド人はISILの直接の敵であり、アメリカはクルド人救援の動きを見せていますが、アメリカが「助けすぎて」、もしクルド人がホンモノの国家主権を持つような事態になれば、トルコとイランは簡単には承認しないでしょう。その複雑な方程式の中で、オバマはこの問題に「解決策」がないことを知っています。それにも関わらず、国民に対して誠実にこの問題を説明することはできていません。
ISILが非人道的だと怒る、その一方で「地上軍は出さない」という矛盾した対応が、「実は最善手」だということをうまく説明できていないのです。
つまりオバマの「不人気」の背景には、「理想を掲げつつ現実に歩み寄ることの必然性」と、「複雑な問題については即時の全面解決を目指さない選択肢が実は最良」であること、この2つが国民に理解されていないという現実があります。
頭脳明晰なオバマがこのような苦境に陥るということは、現代に大衆政治家を生み出すことの困難を示しているように思うのです。日本の民主党がたどった「失敗」とは比べものにならない深刻な問題が、そこには横たわっています。
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