日銀の「ゆるやかな金融抑圧」がスタグフレーションを招く - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年12月24日 17時47分
日本はGDP(国内総生産)の230%以上の政府債務を抱えている。これは先進国の平時としては世界史上最大だが、安倍政権は増税を先送りし、社会保障費の削減にも手をつけない。これで財政再建は絶望的になったが、政府債務を減らす方法は他にもある。『21世紀の資本』で話題のトマ・ピケティは、日本経済新聞のインタビューに次のように答えた。
1945年の仏独はGDP比200%の公的債務を抱えていたが、50年には大幅に減った。もちろん債務を返済したわけではなく、物価上昇が要因だ。安倍政権と日銀が物価上昇を起こそうという姿勢は正しい。物価上昇なしに公的債務を減らすのは難しい。2~4%程度の物価上昇を恐れるべきではない。
これはアベノミクスを肯定しているようにみえるが、彼がインフレを推奨するのは景気対策のためではない。イギリスでは図のように1945年にGDPの250%を超えていた政府債務比率が、1950年代に半減した。これを「イギリスでも250%の借金を返したのだから、日本もできる」という人がいるが、それは間違いである。
イギリスの政府債務比率と金利・物価(右軸)出所:イングランド銀行
図のように1950年代まで長期金利は5%以下に規制されていたが、物価上昇率はそれを超えていたので、実質金利(長期金利-物価上昇率)はマイナス金利になった。これは国債の保有者が政府に金利を払っているのと同じことだから、政府債務が減ったのだ。
このようにマイナス金利にして、政府債務を減らす政策を金融抑圧と呼ぶ。増税は政治的に困難だが、金利を規制して中央銀行がインフレにすることは法律も議会の同意も必要なく、ほとんどの人は気づかない。ピケティは「日本政府はインフレで借金を踏み倒せ」と提言しているのだ。
しかしイギリスで金融抑圧が可能だったのは、それが戦時国債だったという特殊性によるところが大きい。戦争が終わると戦時国債はなくなり、国債の発行額は激減する。イギリスでは1947年以降、単年度では大きな財政黒字になり、政府の累積債務が減った。また戦争で破壊された資本設備を復旧するための投資が増え、5~10%の名目成長率が続いたので、政府債務のGDP比は下がった。
今の日本は、これとは状況が大きく違う。第一に財政赤字が大きく、成長率は低い。「アベノミクスで成長率を上げれば財政黒字になる」という希望的観測もあるが、消費税率8%のままプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字にするには、7%以上の名目成長率が必要だ。マイナス成長になって高齢化の進む日本経済で、そんな高度成長期のような夢がどうやったら実現するのだろうか。
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