ケインズの時代が終わり、マルクスの時代が始まる - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2015年1月7日 17時8分
しかし考えようによっては、それは16世紀以前に戻るだけだ。もともと世界には、国境はなかった。アジアでは、中国の皇帝が世界全体をその版図として支配していた。アフリカには部族社会はあったが、国家はなかった。その国境線は、ヨーロッパ諸国の植民地支配の境界だった。
資本に国境がなくなる時代には、企業にとっては法人税もコストの一つに過ぎない。日本国内で「年産300万台」を死守して40%の法人税を払うトヨタより、タックス・ヘイブン(租税回避地)に子会社をつくって海外利益の2%しか納税しないアップルのほうが、グローバル資本主義では合理的なのだ。
主権国家は矛盾をはらんだ制度だが、それを連邦国家にしようというEU(欧州連合)の制度は、ギリシャ危機でゆらいでいる。「短い20世紀」が終わり、主権国家というカルテルで徴税する時代が終わったとすれば、グローバル企業がオフショアに逃避し、大富豪がカリブ海に資産を集めて税金を払わない時代が来るかもしれない。
世界各国の対外資産の合計は、対外債務を(世界のGDP比で)1割近く下回る。貸した金が借りた金より少ないはずはないので、これはその差額が地下経済にもぐっていることを示す。これを放置するとピケティも危惧するように、所得分配が極端に不平等化するおそれがあるが、彼のいう「グローバルな資本課税」もユートピアである。
しかし悲観的な未来ばかりでもない。マルクスは「資本が世界を文明化する」と予言した。世界の人口の8割はまだ資本主義を知らないのだから、彼らがグローバル化すれば成長の余地は大きく、海外収益を含むGNI(国民総所得)でみれば、日本が成長する可能性もある。日本の企業には、まだ資本主義が足りないのだ。
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