嫌イスラームの再燃を恐れるイスラーム世界 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2015年1月9日 21時28分
シャルリー・エブド誌襲撃事件は、世界を震撼させている。欧米諸国を、というより、世界中のイスラーム教徒を、だ。
フランス版9-11事件ともいえるほどの衝撃を与えたこの事件に対して、イスラーム諸国は即刻、テロを糾弾し、フランスへの哀悼を示した。フランスと関係の深い北アフリカ諸国や、経済的なつながりの強い湾岸諸国はむろんのこと、ほとんどの中東の政府、要人が深々と弔意を示している。エジプトにあるスンナ派イスラームの最高学府たるアズハル学院も事件への非難声明を出したし、欧米諸国から「テロリスト」視されているレバノンの武装組織ヒズブッラーですら、惨殺されたフランスの漫画家との連帯を表明している。
意地悪な見方をすれば、この事件がイスラーム教徒の「踏絵」と化しているともいえる。ちょっとでも犯人側をかばうような発言をして、今後吹き荒れるのではと懸念される欧米での嫌イスラーム風潮に巻き込まれて、「テロリストの一味」視されたらたまらないと、不安感が蔓延しているのだろう。
それでも、少しは「でもやっぱりフランスにも責任があるじゃないか」的な(それなりに真っ当な)コメントは出てくる。実のところオランド政権になってフランスはブッシュも真っ青なほど徹底した「反テロ戦争」強硬政策を取っているとか、その関連で今でも仏兵3000人を駐留させているマリを始めとして西アフリカへの直接関与を強めているとか(本コラム2013年1月23日付を参照ください)、近年の選挙でフランスのみならず移民排斥を訴える極右が台頭しているとか、フランスは間接的にイスラーム国を支援してテロを助長するような政策をとってきたじゃないか、とか。
トルコの有力紙ヒューリエット(ウェブ版)は、以下のような「フランスの事情」を背景として指摘している。襲撃事件のあった日は『降伏』という小説が出版された日だったが、これは「フランスでムスリム同胞団が与党となり、フランスにイスラーム法による統治が導入される」という内容の近未来小説。これが大論争になっていたというのだ。
それでも、目につく部分では圧倒的に、フランスに対する全面的同情で覆われている。攻撃された週刊誌に同情し、表現の自由はテロに屈しないとの意思をこめて掲げられたスローガン「私たちはシャルリーだ」のツイッターには、多数のイスラーム教徒がフォローしていると言われる。
この「シャルリー擁護」の広がりには、驚かされる。もともと急進的左翼系のシャルリー誌によるイスラーム侮辱論調は、2006年から続けられてきたが、その過激な批判精神はイスラームに対してだけではない。やりすぎではとの声は、国内外からしばしば挙げられてきた。
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