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残忍ISISの支配の実態は

ニューズウィーク日本版 / 2015年1月29日 14時59分

 どうやらISISは、無政府状態に陥ったシリアとイラクから奪い取った地域で、それなりに機能的な国家を建設しつつあるらしい。長らく流血の宗派間抗争に耐えてきた現地の人々は、何よりも安定を欲している。だから「ISISが一定の統治能力を示すことができれば、勝利は彼らのものだ」と、アトランは言う。

 ISISが残虐なのは事実だが、そこにも一定の「節度」はあるらしい。平気で公開処刑をするような体制が住民に愛されるとは思えないが、いくら苛酷でも法律が守られ、生活に一定の安定が得られるならば、たいていの人は無政府状態より好ましいと考えるのだろう。

 頑迷なイデオロギーの持ち主ではあるが、国造りに関する限り、ISISはかなり現実的な路線を進めている。民生部門の要職の多くは、イラクのフセイン政権時代の官僚たちが占めている。ラッカで電気通信部門を仕切っているのは、博士号を持つチュニジア人。小麦粉の生産と流通を仕切るのはアサド政権の元役人だ。

 ただし、すべての人々がISISを積極的に支持しているわけではない。現地の活動家グループ「ラッカは静かに殺戮されている」を率いるアブ・イブラヒム・ラカウィによると、実際には「持てる者」と「持たざる者」の格差が拡大している。それなりに恵まれているのはISISのメンバーだけで、それ以外の人々の暮らしは苦しい。「貧困と病気が蔓延している。空爆で市内の物価は高騰した。電力は供給されず、皆が発電機に頼っている」と、ラカウィは英オブザーバー紙に語った。



崩れる無敵の聖戦神話

 ISISはその軍事部門の残虐な仕打ちゆえに、多くの地域で憎悪の対象となっている。しかし形ばかりでも統治の仕組みを整えた地域では、当座の安定をもたらす勢力として受け入れられているようだ。

 昨年末には、ISISの快進撃にブレーキがかかった。現在、トルコとの国境に近いシリアの要衝コバニ(アインアルアラブ)の戦いで苦戦を強いられている。

 ついにISISの無敵神話が崩れたのかもしれない。無敵と信ずればこそ世界中から集まってきた志願兵の若者たちも、小さな町コバニを陥落させることもできないと聞けば、二の足を踏むのではないか。定評のある治安情報会社ソウファン・グループも11月末、ISISがイラクの首都バグダッド西方の要地アンバル州攻略に失敗したもようだと報告している。

 それが終わりの始まりではないにしても、大躍進が止まったとなれば住民の間には不安が広がる。もしもISISが撤退したら、今度はまた別の勢力の下で流血の惨事となるかもしれない。ISISは曲がりなりにも秩序らしきものを用意したが、その他のテロ組織や復讐の念に燃える政府軍や民兵勢力はおよそ信用できない。

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