ネムツォフ暗殺?でロシア野党は壊滅状態
ニューズウィーク日本版 / 2015年3月4日 14時53分
ロシアの野党指導者ボリス・ネムツォフが、モスクワのクレムリン近くで殺害された事件の背景はまだ不明だ。しかし彼の支持者の間では、この事件が野党勢力への打撃を狙ったものだという疑いが強い。今週モスクワで営まれたネムツォフの葬儀に参列した支持者たちは、偉大な指導者の1人を失った野党勢力の未来が今後どうなるか、暗澹たる気持ちで会場を後にした。
ネムツォフの殺害は、野党勢力への共感や支持を集めるかもしれない。しかし反対に、プーチン政権に反発する人々を震え上がらせ、政治的に危険な論調から距離を置くようにさせるかもしれない。専門家は多くは、野党勢力の未来を悲観的に見ている。
チェスの元世界チャンピオンでプーチン批判の先鋒でもあるガリル・カスパロフはロイターのインタビューに答えて、「プーチンの野蛮な独裁からロシアが10年前の穏やかな時代に戻る望みはもう無くなった」と沈痛な様子で語った。ネムツォフの殺害は「野党勢力で活動する者全員にとって、すべてが無に帰したことを意味する」
ネムツォフの損失が大きいのは、彼と野党政治家アレクセイ・ナワルニーの他に、広い支持を集められる野党指導者がほとんどいないからだ。ネムツォフは、2012年に他の著名な野党指導者(ミハイル・カシヤノフ元首相、ウラジーミル・ルイシコフ元下院議員ら)と共に野党連合「ロシア共和党・人民自由党」を結成しているが、彼の仲間たちは知名度があっても有権者への影響力が弱い。
ナワルニーは、野党側が言うところの「でっち上げの横領や詐欺」の容疑や自宅軟禁を破った容疑で何度も逮捕されている。昨年ナワルニーは横領罪で執行猶予付き3年6カ月の有罪判決を受け、彼の弟は3年6カ月の実刑判決を受けた。近親者を制裁することでナワルニーを黙らせようという脅迫だと見られている。
「民衆の心をつかむような盛り上がりを、野党勢力はつくりだすことができない」と、英BBCのロシア政治アナリストは指摘する。「ロシア国民が革新的な変化を恐れていることは理解できる。多くの人にとって旧ソ連の崩壊はまだ記憶に新しく、他の大方の事柄よりも安定が重要視される」
ロシア政治は暴力的、敵対的な悪循環に陥っている。有権者がより過激になって相手を中傷するので、それがまた暴力を呼んでいる。政府は国営メディアを統合して、政権寄りのメッセージをさかんに視聴者に送り、野党勢力のことをロシアの統治にとって危険だと決めつけている。
プーチン時代のこの15年の間に、ロシアの多くの野党勢力や反政府活動家が裁判にかけられ、場合によってはシベリアの刑務所に送られている。もっと残酷なケースもある。ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤは、チェチェンでの人権侵害をリポートし、06年に殺害された。当局の捜査はほとんどが未解決で終了している。
元チェス世界チャンピオンのカスパロフや大物政商のボリス・ベレゾフスキーなど、反体制派の多くが国外に亡命している。しかしそれでも彼らが安全になったとは言えない。ベレゾフスキーは13年にロンドンの自宅アパートで不審死を遂げた。ロシア情報機関の元幹部で反体制派に転じたアレクサンドル・リトビネンコは、06年にロンドンで放射性物質を飲まされて毒殺されている。
<訂正>「ピアニストのボリス・ベレゾフスキー」は誤りで、「大物政商のボリス・ベレゾフスキー」に訂正しました。
デニス・リンチ
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