震災当日の晩、JR東日本は何を最優先にしたか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年3月12日 12時25分
今年も「あの日」がやってきました。4周年という歳月を経てもなお、復興公営住宅の建設は進まず、仮設住宅の撤去率は1%程度に止まっているというニュースを聞くと、胸がつぶれる思いがします。
要するに「仮設から常設の住居に移ることができた」被災者が極めてわずかだということだからです。「あの頃」には仮設の建設が遅れたということで、当時の与野党間では大論争になったことを思うと、現在はそうした熱気も薄れているわけで、更に暗澹たる気分にさせられます。
その一方で、4年という月日がある種の「癒し」を実現したのも事実です。
例えば、今年の「3月11日」にNHKではJR東日本に取材した「震災秘話」を伝えるドキュメンタリーを放送していました。震災直後から同社の方々から色々なお話を聞いてきた私としては、そうした番組が実現したことに深い感慨を覚えました。
というのは、JR東日本は、「震災に関して、わずかでも自慢話になるような内容は一切語らない」ということを強い方針にしてきたからです。JR東日本は、午後3時少し前という、新幹線も在来線も多くの本数が営業している時間帯に、未曾有の大震災に被災しながら死傷者を一切出していません。
その事実は、日本のみならず世界の鉄道界、あるいは交通業界にあって貴重な事例であるのは疑いないのですが、具体的なエピソードを自ら語ることは禁じてきたのです。
理由は簡単で、被災地の全域の鉄道輸送を担っているJR東日本としては、何よりも鉄道サービスの復旧を急ぐことと、膨大な数の被災者に寄り添うことが優先されたからです。
さらに具体的な理由としては、乗車中の被災乗客はゼロであっても、降車後の避難が間に合わずに津波被災した乗客は必ずしもゼロとは言えないという事実を、重く受け止めていたということも聞いています。
そうした経緯を知る身としては、今回NHKの番組が実現したことは救いでした。JRとして、この種の報道に協力できるようになったというのは、つまり服喪期間から少し先へ進んだという意味合いがあるわけで、特に新幹線の耐震対策のことなどが、広く知られるようになるのは、とても良いことだと思うからです。
具体的には、自前で配置した地震計による初期微動を感知すると電源を瞬断するシステム、その際に非常ブレーキで車輪が空走しないようにセラミックの粉末を車輪と線路の間に噴射するシステム、さらには、高架柱の損傷を防ぐために鉄筋コンクリの柱を鋼鉄の板で覆う補強構造、この3つが合わさって最高で時速300キロ運転(被災当時、現在は最高320キロ)からの全営業列車の安全な停止を実現しています。
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